DeepSeek Harnessとは​何か​ ──DeepSeekが​無料で​公開した​「AIに​仕事を​させる​土台」を​実際に​動かして​解説

DeepSeekが8月13日、コーディングAIの土台「DeepSeek Harness」をMITライセンスで公開しました。同じ日にAPIの新料金も告知され、8月16日から実質値上げになります。手元で起動して1タスク走らせ、14ステップ・入力9万トークンの中身まで実測した結果を解説します。

甲斐ショウジ甲斐ショウジ
CAG主宰/合同会社ATK CAIO(最高AI責任者)
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技術DeepSeek Harnessとは何か ──DeepSeekが無料で公開した「AIに仕事をさせる土台」を実際に動かして解説

2026年8月13日、DeepSeekが 「DeepSeek Harness」 を公開した。AIにコードを読ませ、コマンドを実行させ、ファイルを直させる——その一連の作業を仕切る土台のソフトウェアで、MITライセンスの無料公開だ。公開から1日でGitHubのスターは6万を超えた[1]

ただし同じ日に、DeepSeekはもう1つ告知している。APIの新料金だ。こちらは8月16日から適用で、内容は値上げになる。

道具は無料で配られ、燃料は高くなった。この記事では、その道具を実際に手元で動かして、①何ができたか ②1回の作業でトークンがどこに消えるか ③新料金で何がどう変わるか ④使う前に見ておくべきところ、の4点を実測値で見ていく。

ローカルで動くコーディングエージェントの画面。作業フォルダ dsh-lab と、Read・Bash・Edit と進む実行ログが並んでいる
手元のMacで起動したDeepSeek Harness。指示は日本語で一文、そこから14ステップぶんの作業が自動で進む(画面はイメージ)

01 何が​配られたのか——モデルではなく​「土台」

「ハーネス」は聞き慣れない言葉なので先に一行で言う。AIモデルそのものではなく、モデルに道具を持たせて仕事を最後までやらせる側のソフトのことだ。ファイルを読む、コマンドを打つ、やることリストを管理する、危ない操作の前に人に聞く——このあたりを担当する。

モデル 考える ハーネス(dsh) ファイルを読む・直す コマンドを実行する やることリスト 危ない操作は人に聞く 作業フォルダ 実物のファイル
賢さを担当するのがモデル、手を動かす段取りを担当するのがハーネス。同じモデルでも、この土台の出来で仕事の質と費用が変わる

DeepSeek Harness(コマンド名 dsh)は、それをまるごとオープンソースにしたものだ。報道では「Claude Codeの対抗」と紹介されているが、DeepSeek自身はそう名乗ってはいない。公式がREADMEで強調しているのは別の一点で、「すべてがプラグイン」という構造のほうだ。

インストールはNode.jsがあれば1行で、npx @deepseek-ai/dsh web を叩くとローカルにWeb UIが立ち上がる。手元(macOS・Node.js 22)では初回90秒ほどで http://127.0.0.1:3080 が開いた。同時に、DeepSeekの旗艦モデル DeepSeek-V4-Proも正式版(GA)になった。4月のプレビュー公開から約4か月ぶりで、公式が挙げた変更は3つ——エージェント性能の強化、思考の深さを low / high / max から選べるようにしたこと、そしてOpenAIのResponses APIにそのまま対応したことだ[2]

「どのモデルが強いか」より「どの土台に乗せるか」で成果が変わる、という話は以前も扱った。今回はその土台そのものが、無料で手に入る形で出てきたことになる。

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02 実際に​動かしたら、​14ステップで​終わった

道具の紹介は「動かしてみた」まで行かないと意味が薄い。検証用に、わざとバグを入れたPythonファイルを1つ置いた。add(a, b) という足し算の関数が、中身は return a - b(引き算)になっている。指示は日本語で一文だけ——「calc.py を読んでバグを指摘し、python3 で現在の挙動を確認したうえで修正してください」。

目標を立てる やること4件 読む 実行して現状確認 直す 実行して検証 完了 1ターン / 14ステップ / 25秒 金色の2つは指示に書いていない。ハーネスが実行の道具を渡しているので、自分で証拠を取りに行った
実際の実行順。目標づくりとToDo管理から始まり、直す前後で2回コマンドを走らせて事実を確認している

結果は1ターン・14ステップ・25秒で完了した。途中の動きは全部画面に出る。まず目標(Goal)を自分で作り、やることリストを4件立て、ファイルを探して読み、python3 で現状を再現して 4 という誤った答えを確認し、修正し、もう一度実行して検証まで済ませた。出てきた答えは「バグは add(a, b) が加算ではなく減算していた点です」。ディスク上のファイルも実際に書き換わっていた

注目したいのは、直す前に現状を実行して確かめ、直した後にもう一度実行しているところだ。これは指示に書いていない。ハーネスが「実行できる道具」を渡しているので、モデルが自分で証拠を取りに行ける。賢さの差ではなく、道具の差でこうなる。

03 請求書は​「会話」ではなく​「道具の​説明書」で​決まる

ここが、この記事でいちばん持ち帰ってほしいところだ。上の作業1回ぶんのトークンを、内訳まで実測した。

項目実測値
入力トークン合計91,479
└ うち新規に読ませた分42
└ うちキャッシュから読んだ分84,194
└ うちキャッシュに書いた分7,243
出力トークン941
キャッシュヒット率92%

「たった1つの関数を直す」作業で、入力が9万トークンを超えている。ではその9万は何かというと、ほぼ同じものを14回読み直しているのだ。1ステップぶんの中身を開くと、こうなっていた。

1ステップぶんの中身(トークン) システムの指示1,508 道具の説明書6,376 会話そのもの1,258 この固定費が、ステップの数だけ掛かる(今回は14ステップ)
会話は1,258トークン。その5倍にあたる6,376トークンが、モデルに毎回渡される道具の使い方の説明だ

会話は1,258トークンしかない。ファイルを読む道具、コマンドを打つ道具、やることリストの道具……それぞれの説明が、ステップのたびにモデルへ渡される。だからAIエージェントの費用を下げる手は、「賢いモデルをやめる」より先に持たせる道具を減らすほうにある。そしてキャッシュが効くかどうかで請求額が一桁変わる(今回は92%がキャッシュ経由だった)。

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04 同じ​日に​告知された、​8月16日からの​新料金

無料の道具の話の裏で、燃料の値段が動いた。DeepSeekの公式告知はこう書かれている——「オフピーク料金はピーク料金より50%安く、より柔軟に作業を割り当てられるようになります」。得をする話に読める。ところが現在の料金表と並べると、見え方が変わる[3]

DeepSeek-V4-Pro(100万トークンあたり)現在8/16〜 オフピーク8/16〜 ピーク
入力(キャッシュヒット)$0.003625$0.022$0.044
入力(キャッシュミス)$0.435$0.66$1.32
出力$0.87$1.98$3.96

安いほうのオフピークですら、今より高い。出力単価で見ると、オフピークで約2.3倍、ピークで約4.6倍になる。「50%オフ」はピーク価格に対しての話であって、今日の価格に対してではない。

そして、ピーク帯の時間がもう1つの論点になる。

日本時間(JST)の1日 日本の一般的な業務時間(9:00–18:00) ピーク ピーク 0時 6時 12時 18時 24時 ピーク=10:00–13:00 と 15:00–19:00(UTCの01–04時・06–10時) = 業務時間に働かせるほど、高いほうの単価に当たる
ピーク帯は日本の業務時間とほぼ重なる。夜間に回せる処理と、日中に人が待つ処理を分けて考える必要が出てくる

02の作業(入力91,479・出力941トークン)を新料金で概算すると、ピーク帯で1回あたり約1.7セント、現在の料金なら約0.4セント——同じ作業が約4倍になる計算だ(CAG試算・キャッシュ書き込み分をミス扱いとした概算[6])。1回なら誤差でも、エージェントを常時走らせる使い方では効いてくる。

05 ​「すべてが​プラグイン」は​どこまで​本当か

READMEの一行は "Everything is a Plugin."(すべてがプラグイン)。これは検証できる。dsh --profile web --dump-config を叩くと、起動時に組み上がる構成がそのまま出てくる。手元で数えたところ、プラグインの行は129行(うち25行は無効化された状態)だった。

構成一覧の画面。エージェント本体や承認ポリシーと並んで、サイドバーや設定画面といったUIの部品も同じ形式の行として並んでいる
並んでいる行の中身。モデル接続やエージェント本体と同じ列に、サイドバーや設定画面といった画面の部品も入っている(画面はイメージ)

中身を見ると、モデルとの接続、エージェントの本体ループ、承認ポリシー、ファイル操作……に加えて、サイドバー・テーマ・設定画面といった画面の部品まで1行ずつのプラグインとして並んでいる。つまり「差し替えられる」の対象に、自分がいま見ている画面が入っている。公式ドキュメントも「パッチを当てる特権的なコアは存在しない」と書いていて、拡張とは横に1枚足すことだと説明している。

dsh-base(モデル接続・道具・承認・保存) dsh-web-app(画面そのもの) あなたのパッチ(同じ形式で上書き・追加) 129 行の部品 うち25行は 無効の状態で同梱
起動のたびに、土台・画面・利用者のパッチが順に重なって1本の構成になる。特権的な中心がないので、どの層も同じ書き方で差し替えられる

もっとも、その土台はDeepSeekの発明ではない。dsh が乗っているのは Cordis という別のオープンソース(2022年5月開始・MIT・スター2,337)で、リポジトリ内に取り込む形で使われている[4]。設計論文まで別に公開されている。新しいのはハーネスであって、プラグイン機構そのものには4年ぶんの蓄積がある、という関係だ。

06 権限は​3段階、​ただし​「聞かれない​範囲」が​ある

業務で使うなら、ここが本題になる。権限モードは3段階用意されていて、既定は真ん中だった。

アクセスモードの選択画面。Read Only、Workspace Write、Full access の3択で、真ん中のWorkspace Writeが選択されている
既定は真ん中の Workspace Write。「指定したフォルダの中なら書き換えてよい」という設定で始まる(画面はイメージ)

そのうえで、02の作業では承認を求めるダイアログが一度も出なかった。コマンドの実行もファイルの書き換えもだ。設定は「承認を求める」になっているのに、なぜか。

答えは、閉じ込めのほうが先に効いているから。macOSではOS標準の仕組みでプロセスを閉じ込め、Workspace Write は「作業フォルダと一時領域への書き込みを許す」という意味になる。許された範囲で完結する操作は、そもそも承認の対象にならない。人に聞きにくるのは、境界を越えるときだけだ。

ここで実務上いちばん大事な但し書きを、公式ドキュメントが自分で書いている。「ネットワークとプロセスの可視性は、この語彙の外」——つまりファイルの範囲を絞っても、通信は止まらない

作業フォルダの中 読む・書き換える コマンドを実行 → 承認は求められない(既定) サンドボックスが先に許可しているため フォルダの外へ ここで人に聞く 通信 閉じ込めの対象外 =止まらない 「フォルダに閉じ込めたから安全」と考えると、外部への送信は素通りする
止まるのはファイルへの操作だけ。通信はこの仕組みが扱う範囲に入っていないと、公式ドキュメントが明記している

作業フォルダの登録が、OSのフォルダ選択ダイアログ経由になっているのも同じ思想に見える。どこを触らせるかの入口には、必ず人の手が1回入る

鍵の扱いも細かい。設定ファイルに書くのは鍵の値ではなく環境変数の名前で、公式は「このファイルに秘密は入らない」と明記している。参照先が空だったときも、たまたま環境にある別の鍵で認証を通したりせずエラーで落とすという選び方をしている。子プロセスに渡す環境変数からは KEY SECRET TOKEN PASSWORD を含む名前を落とす、という設計メモもある。

なお実測として、DeepSeekの鍵は1つも登録せずに動かせた。OpenAIやAnthropicなどのモデルが最初から選択肢に入っていて、今回はOpenAIのGPT-5.6 Terraで最後まで完走している。DeepSeekのハーネスを、DeepSeek以外のモデルで使うのは想定内の使い方だ。

07 使う​前に​確認しておく​4点

良さそうに見えても、今日の段階では次の4つを踏まえたほうがいい。

開発者向けプレビュー互換性を壊す変更が入る、と公式が明記 外部のコード提案は不可公式リポは「指示ではなく見本」と書かれている 画面は中国語と英語のみ既定は中国語。日本語の選択肢はない 燃料代は別勘定道具は無料でも、動かすモデルの料金は今週上がる
どれも公式が自分で書いていることばかりで、隠された欠点ではない。導入の判断材料として先に見ておく

①まだ開発者向けプレビュー。READMEに「互換性を壊す変更が入ります」と大文字で書いてある。起動して最初に出る告知でも「0.1版はテスト段階」「コアの部品と基礎APIは今後急速に変わる見込み」と説明される。本番業務の土台に据える段階ではない。

②コードの提案は受け付けていない。6万を超えるスターが付いた無料公開だが、CONTRIBUTING.md には外部からのプルリクエストは現時点で受け付けられないと明記されている。代わりに勧められているのは「プラグインを作って共有すること」で、公式リポジトリは「指示ではなく、見本」と書かれている。オープンソース=共同開発、とは限らない。

③画面は中国語と英語のみ。言語設定の選択肢は2つで、既定は中国語。日本語はない。社内で非エンジニアに触ってもらう用途だと、ここは素直に効いてくる。

④燃料代は別。道具はMITで無料だが、動かすモデルの料金は別勘定で、そのモデルの単価は今週上がる(04参照)。「無料のツールが出た」で予算を立てると外す。

触ってみる前のチェックリスト

  • 触らせるフォルダを1つ決めた(既定では、その中なら書き換えられる)
  • そのフォルダの外に出る操作が起きたとき、誰が承認するかを決めた
  • 通信は閉じ込めの対象外であることを、関係者が理解している
  • 使うモデルの単価と、1タスクあたりの想定トークン量を出した(今回の実測では、小さな修正1件で入力9万トークン)

私たちも受託の現場で同じ土台をいくつか使い分けているが、費用の差が出るのはモデルの選定より持たせる道具と承認の置き方だった。無料で全部入りの土台が出てきたことより、その中身を開いて数えられるようになったことのほうが、たぶん効いてくる。

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参考・出典

  1. GitHub deepseek-ai/deepseek-harness(リポジトリ作成 2026-08-13 11:56 UTC・MITライセンス)。スター66,366/フォーク5,610は2026年8月14日13時(JST)時点でCAGがGitHub APIで実測した値。約1時間前の計測では62,793だったため、閲覧時点ではさらに増えている可能性が高い。
  2. DeepSeek API Docs DeepSeek-V4-Pro GA Release(2026年8月13日)。
  3. DeepSeek API Docs Models & Pricing(2026年8月14日時点)。新料金は2026年8月16日16:00 UTC適用と明記。ピーク帯は01:00–04:00/06:00–10:00 UTC(日本時間10:00–13:00/15:00–19:00)。
  4. GitHub cordiverse/cordis(2022年5月17日作成・MIT・スター2,337/2026年8月14日実測)。
  5. 本文中の実行結果・トークン数・プラグインの行数・権限設定は、すべてCAGが手元のmacOS(Node.js 22)で npx @deepseek-ai/dsh web を起動して実測したもの。モデルはOpenAIのGPT-5.6 Terraを使用(DeepSeekのAPIキーは未登録)。公表されているベンチマークの再現検証は行っていない。
  6. 費用の概算はCAGの試算であり、DeepSeekが公表した金額ではない。キャッシュ書き込み分をキャッシュミス単価で計算している。

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