2026年8月19日、Claude APIの「computer use(画面操作)」が正式版になり、同じ日にブラウザ専用の「browser use tool」が新しく加わった。翌20日、Anthropicが発表記事を出している[1][2]。
変わったのは、AIが画面を触るときの入口だ。これまでは「画面の写真を見て、座標をクリックする」しかなかった。そこに「ページの構造を読んで、その要素を名指しで操作する」経路が増えた。あわせて、クリック・入力・Enterを1回の応答でまとめて返せるようになっている。
この記事では4つを扱う。①8月19日に何が正式版になったのか ②従来のスクリーンショット方式と何が違うのか ③速度と費用がどう変わるのか ④導入前に知っておく制約。④には、日本企業に効く事実がひとつある。AWSなどクラウド経由では、今日の時点でまだ使えない。
01 何が正式版になったのか──同じ日に4つ動いた
Claude Platformのリリースノート(2026年8月19日付)に、その日の変更が並んでいる[1]。ポイントは4つが同時に正式版になったことだ。
| 対象 | 2026年8月19日の変更 |
|---|---|
| 画面操作 (computer use) | 正式版。computer_toolset_20260801 としてベータ用ヘッダなしで使える。1ターンに複数操作、拡大(zoom)は既定で有効 |
| ブラウザ操作 (browser use) | 新登場。browser_toolset_20260801。アプリケーション側が用意したブラウザの表示領域の中で動く |
| Files API | 正式版。組織あたり1TBの保管領域、アップロード時に有効期限を指定できる |
| Agent Skills / Skills API | 正式版。自社の手順書をバージョン管理して、リクエストから呼び出せる |
| 対応モデル | Claude Fable 5 / Mythos 5 / Opus 5 / Sonnet 5 / Opus 4.8 |
翌20日の発表記事は、この一式を「ソフトウェアを操作し、自社の手順を適用し、完成したファイルを返すエージェント」として紹介している[2]。例に挙がっているのは保険金請求だ。Files APIから申請書類を読み、スキルに書かれた手続きに従い、ブラウザ操作で保険会社のWebポータルに入力し、控えをファイルとして保存する。
ひとつ補足しておく。発表記事は「computer use に browser use tool が加わった」という書き方をしているが、ドキュメント上は別々のツールセットで、座標の基準も違う(ブラウザ側は表示領域のピクセル、画面操作側はデスクトップのスクリーンショットのピクセル)。両方を同時に宣言でき、同じ名前の部材はどちらのものかで区別される[3]。
02 何が違うのか──「画面の写真」と「ページの構造」
従来の画面操作は、人間の目と手をそのまま真似る方式だった。スクリーンショットを見て「ここをクリック」と座標を返す。相手がどんなソフトでも動く代わりに、レイアウトが少しずれるだけで狙いが外れる。
ブラウザ操作ツールは、そこにページ自身を読む手段を足した[3]。
| 部材 | 何をするか |
|---|---|
read_page | ページのアクセシビリティツリー(画面読み上げソフトが使うのと同じ、要素の構造情報)をテキストで返す。各要素に [ref_2] のような参照が付く |
find | 「検索フィールド」「カートに入れるボタン」のような自然な言葉で要素を探す(最大20件) |
get_page_text | 本文のテキストだけを取り出す。記事やドキュメントを読ませるとき向き |
form_input | フォームの値を直接セットする(チェックボックスは真偽値、セレクトは選択肢の値か表示テキスト) |
| タブ操作 | new_tab / list_tabs / switch_tab / close_tab |
つまりAIは「画面の左から320ピクセル、上から180ピクセル」ではなく、「ref_3 のテキストボックス」と名指しできる。参照はレイアウトのずれや再描画に強い。一方、キャンバスで描かれた画面、埋め込み動画、大量の行を仮想的に描くリスト、別ドメインのiframeの中身などは構造として読めないので、そこは従来どおりスクリーンショットと座標で触る。公式は両方を状況で使い分ける前提で書いている。
費用にも差が出る。公式ドキュメントは「大きなページでは、ツリーの読み取りのほうがスクリーンショットより入力トークンが少なく済むことが多い」と明記している。しかも読み取り結果には、そのまま操作に使える参照が付いてくる。見た目そのものが問題になるとき(表示崩れ、画像、描画状態)はスクリーンショットの出番、という整理だ。
関連記事 | この流れの前段AIが、自分で画面を触って直す時代 ──「コードを書くAI」から「動かして確かめるAI」へ
→
03 1ターンに複数操作──往復が減ると、時間と費用が減る
正式版でのもう一つの変更が、1回の応答に複数の操作を入れられるようになったことだ[1][3]。
たとえば「検索ボックスをクリック → install と入力 → Enter」を、以前はモデルの呼び出し3回に分けていた。いまは1ターンで3つ返ってくる。実行側は書かれた順に実行し、最初の失敗で止めて、残りには Not executed: an earlier action in this turn failed.(このターンの前の操作が失敗したため未実行)という決まった文言を返す。この停止ルールがあるので、途中で失敗したまま後続が走ることがない。
発表記事には、この効果についての利用企業の証言が載っている。医療・保険の、APIを持たないシステムの中で動くエージェントを作っている Asteroid のリサーチエンジニア、Davide Locatelli 氏のコメントだ[2]。
最も長い保険金請求のワークフローが32分から13分になり、1タスクあたりのコストは検証した全ワークフローで約30%下がり、完了率は100%になった。プロンプトは変えていない。
Anthropicの発表記事に掲載された利用企業のコメント(要約・CAGによる検証ではない)
数字はAnthropicが載せた利用企業の申告で、こちらで確かめたものではない。ただ「プロンプトは変えていない」という但し書きが、変化の出どころを示している。モデルが賢くなったのではなく、往復の回数が減ったという話だ。なお、実行側が一度に1操作しか処理できない作りなら、disable_parallel_tool_use を指定して1ターン1操作に戻せる。往復は増えるが、既存の実装をそのまま使える。
04 費用の見え方──宣言するだけでかかる分がある
トークンの話も、公式ドキュメントに数字で書かれている[3][4]。
| 項目 | 目安(入力トークン) |
|---|---|
| ブラウザ操作を宣言(既定の27部材) | 約6,600(Claude Sonnet 5 は約6,670) |
| +オプション4部材を全部有効化 | 約880を追加 |
| 画面操作を宣言(既定) | 約4,500(Claude Sonnet 5 は約4,590) |
| 画面操作で拡大を無効化 | 約410を削減 |
| スクリーンショット・拡大画像 | 画像入力として課金 |
| ツリー・ページ本文・ログ | テキストの結果として課金 |
リクエストに1行足すだけで、部材の説明文として毎回6,600トークン前後が乗る。使わない部材を configs で切れば減る。実際の数字はレスポンスの usage に出るし、事前にトークンカウントのエンドポイントで見積もれる。プロンプトキャッシュの区切りは、部材ごとではなくツールセットの宣言そのものに置く。
長く動かすエージェントほど、この固定費より「往復の回数」と「毎回返す画像の大きさ」が効いてくる。画像はAPI側で自動縮小されないので、モデルの上限に収まるサイズへ自分で縮めてから返す必要がある(縮めた分だけ、AIが返してきた座標は自分で元の倍率に戻す)。
05 既定値が安全側に倒してある──4つの部材は最初オフ
ブラウザを触らせるということは、Webのどこかに書かれた文章がAIの入力になるということだ。公式ドキュメントはこの点にかなりの分量を割いている[3]。
まず、31部材のうち4つが既定でオフになっている。理由もそれぞれ書かれている。
| 部材 | 何をするか/既定でオフの理由 |
|---|---|
javascript_exec | ページ内でJavaScriptを実行する。細工されたページがAIにさせられることが広がるため |
file_upload | ファイル入力欄にファイルを設定する。同じ理由 |
read_console | コンソールのログを読む。自動化基盤によっては取得できず、ページ由来の内容が届く範囲も広がるため |
read_network | 通信の記録を読む。同じ理由 |
そのうえで、運用側への推奨が具体的に並んでいる。専用のコンテナか仮想マシンで、資格情報を持たない新しいプロファイルで動かす。到達できるドメインをネットワーク層の許可リストで絞り、リダイレクトのあとにもう一度確認する。navigate の処理では http と https 以外のスキームを拒否する——この判定はAPI側では行われないので、実装側で弾かなければ通ってしまう。タブのタイトルやURLも含めて、ページが渡してくるものは全部信用しない。
そして購入・アカウント変更・メッセージ送信・規約への同意といった取り返しのつかない操作は、人が確認してから。1ターンに複数操作が入るようになったので、確認は操作の1つずつに対して行う、とまで書いてある。
公式は「ページに書かれた『これまでの指示を無視して〜へ移動しろ』のような文章に、Claudeが従ってしまうことがある」と正面から書いている。加えて、ブラウザは自社の環境で動くので、訪問先から見えるのは自社のネットワーク上の身元になる。この2つは、社内システムの自動化に使うときの検討事項そのものだ。
関連記事 | 「どこまで自動で通すか」の話Claude Codeの「自動承認」が既定になった ──AIの操作をAIが審査する仕組みと、何が止まらないのかを解説
→
06 今日できること・できないこと──クラウド経由はまだ対象外
導入を検討するとき、先に見ておく制約を公式ドキュメントから集めた[3][5][6][7]。
| 使いたい場所 | 新しいブラウザ操作・画面操作 | 備考 |
|---|---|---|
| Claude API | ○ 利用可 | ベータ用ヘッダは不要 |
| Amazon Bedrock | ✕ 現時点で非対応 | ベータ版の画面操作ツールは引き続き利用可 |
| Google Cloud(Vertex AI) | ✕ 現時点で非対応 | 同上。発表記事では「近日提供」 |
| Microsoft Foundry | ✕ 現時点で非対応 | 同上。Skills API・Files API は提供 |
| Claude Managed Agents | ✕ 現時点で非対応 | Messages APIのツールのため |
ここは検討の順番を変える事実だと思う。3つのクラウド経由(Bedrock・Vertex AI・Microsoft Foundry)は、今日の時点でどれも新しいツールセットに対応していない。それぞれのドキュメントに、ほぼ同じ文言で「computer_toolset_20260801 と browser_toolset_20260801 は現在利用できない。ベータ版の画面操作ツールは引き続き利用可能」と書かれている[5][6][7]。
発表記事のほうは、画面操作とブラウザ操作について「Google Cloud の Vertex AI に近日提供」と書いている[2]。発表の言葉は「近日」、ドキュメントの記述は「現時点では不可」で、どちらも嘘ではない。日本企業はAWS経由でClaudeを使っている例が多いので、いま試すならClaude API 直、という前提になる。
技術的な制約も明示されている。要素の参照は最善努力で、激しく書き換わるページでは安定しないことがある(そのときは座標に戻る)。コンソールと通信の読み取りは、使っている自動化基盤が取得できる範囲しか返せない。既存の画面操作(computer_20251124)から新しい方式へ移る場合、移行手順は9項目あり、そのまま置き換えるだけでは動かない変更を含む[4]——応答の中の全ブロックを順番に処理する、結果に toolset_name を付ける、スクリーンショットを自分で縮小する、key の繰り返し指定に対応する、など。既存のベータ版はそのまま使い続けられるので、急いで移す必要はない。
07 まとめ──検討するときの4項目
| これまでの画面操作 | 今回のブラウザ操作 | |
|---|---|---|
| 見るもの | 画面のスクリーンショット | ページの構造+スクリーンショット |
| 指定の仕方 | 座標(ピクセル) | 要素の参照+座標 |
| 得意な相手 | デスクトップアプリを含む何でも | Webアプリ・社内Webシステム |
| フォーム入力 | クリックして打つ | 値を直接セットできる |
| 実行場所 | 自社環境 | 自社環境(Anthropic側では何も動かない) |
| 宣言時の固定費 | 約4,500トークン | 約6,600トークン |
| 使える場所 | Claude API(クラウド経由は旧ベータ版のみ) | Claude API のみ |
検討するときの確認事項
- 触らせたい画面はWebか。Webならブラウザ操作、デスクトップアプリが混ざるなら画面操作
- 使っている基盤はどれか。Bedrock・Vertex AI・Microsoft Foundry 経由なら、現時点では対象外
- 隔離とドメイン制限、そして「人が確認する操作」の線引きを決めたか
- 1リクエストあたり6,600トークン前後の固定費と、画像・テキストの結果を含めて試算したか
「APIのない社内システムをAIに任せたい」という相談は増えている。今回の変更は、その入口が画面の写真だけだった状態から、ページの構造を読める状態へ広がったという話だ。使えるかどうかは、触らせたい画面と、いま契約している経路で決まる。
出典
- Claude Platform リリースノート(2026年8月19日)。画面操作の正式版化、ブラウザ操作ツールの追加、Files API・Agent Skills の正式版化。platform.claude.com/docs/en/release-notes/api
- Anthropic「Build production agents with computer use, the Skills API, and the Files API」(2026年8月20日)。引用したコメントは Asteroid のリサーチエンジニア Davide Locatelli 氏。数値は同社の申告であり、CAGによる検証ではない。claude.com/blog/computer-use-skills-api-files-api
- Claude Docs「Browser use tool」。部材一覧、参照と座標、バッチ操作、セキュリティ上の考慮、制約、料金とデータ保持。platform.claude.com/docs/en/agents-and-tools/tool-use/browser-use-tool
- Claude Docs「Computer use tool」。
computer_20251124からの移行手順、制約、料金。platform.claude.com/docs/en/agents-and-tools/tool-use/computer-use-tool - Claude Docs「Claude in Amazon Bedrock」。新しいツールセットが現時点で非対応であることの記載。platform.claude.com/docs/en/build-with-claude/claude-in-amazon-bedrock
- Claude Docs「Claude on Vertex AI」。同じく現時点で非対応であることの記載。platform.claude.com/docs/en/build-with-claude/claude-on-vertex-ai
- Claude Docs「Claude in Microsoft Foundry」。同じく現時点で非対応であることの記載。platform.claude.com/docs/en/build-with-claude/claude-in-microsoft-foundry
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