2026年8月21日、OpenAIが「このリクエストはこの地域で処理してほしい」を1件ずつ指定できるようにした[1]。地域専用のプロジェクトを作らなくても、ホスト名を us.api.openai.com のように変えるだけで済む。
「AIに入れたデータが国外に出るのが心配」は、日本の企業が最初に出す懸念のひとつだ。ではこの機能で解決するのか——両社の公式ドキュメントを開くと、答えは「日本は保存だけできて、処理は選べない」。処理地を選べるのはOpenAIで3地域、Anthropicにいたっては選択肢が「米国」か「指定なし」の2つしかない。しかも地域を指定すると料金が10%上がる——これは両社とも同じ倍率だった。
この記事で分かることは4つ。①何が変わったのか ②日本から使うと何ができて何ができないのか ③指定するといくら高くなるのか ④実際に叩いたらどう返ってきたか。④では、承認を受けていない普通のAPIキーで3つの地域ホストに15回リクエストを投げて挙動を測った。結果は3つのホストで3通りに割れた。
01 何が変わったのか──ホスト名で処理地を選ぶ
OpenAIのデータ所在地(データレジデンシー)は、もともとプロジェクト単位の設定だった。地域を決めてプロジェクトを作り、そのプロジェクトのリクエストは指定した地域のホスト名に送る、という仕組みだ[2]。
8月21日の変更で、地域専用のプロジェクトを作らなくてもよくなった。地域を限定していない(Global)プロジェクトのAPIキーでも、ホスト名に接頭辞を付ければそのリクエストだけ指定地域で処理される[1]。開発の途中で「この処理だけは米国内で」と切り替えられる、という話になる。
ここで押さえておきたいのが、公式ドキュメントが「保存」と「処理」を明確に分けていることだ。保存(regional storage)は、バッチやファイルのように処理の都合で残るデータをどこに置くか。処理(regional processing)は、推論そのものをどこで走らせるか。ドキュメントには「保存に対応していることは、処理に対応していることを意味しない」と一行で明記されている[2]。
02 日本から使うとどうなるか──保存はできる、処理はできない
OpenAIのドキュメントには、地域ごとの対応表が載っている。10地域が並び、それぞれに保存の可否・処理の可否・追加要件が書かれている[2]。要点だけ抜き出すとこうなる。
| 地域 | ホスト名 | 保存 | 処理 | 追加要件 |
|---|---|---|---|---|
| 米国 | us.api.openai.com | 可 | 可 | なし |
| 欧州 (EEA+スイス) | eu.api.openai.com | 可 | 可 | 必要(ZDR/修正版の不正利用監視など) |
| アラブ首長国連邦 | ae.api.openai.com | 可 | 可 | 必要 |
| 日本 | jp.api.openai.com | 可 | 不可 | 必要 |
| 英国・カナダ・豪州 インド・シンガポール・韓国 | 各国の接頭辞 | 可 | 不可 | 必要 |
処理まで選べるのは米国・欧州・アラブ首長国連邦の3地域で、日本を含む残りの7地域は保存のみ。しかもドキュメントには、処理に対応していない地域を選んだ場合、サービス提供のためにOpenAIが域外でデータを処理し一時的に保存することがあると書かれている[2]。つまり「日本を選べば国内で完結する」という読み方は成り立たない。
もうひとつ、対象外のデータがある。ドキュメントがシステムデータと呼ぶもの——アカウント情報、利用統計、課金情報、サポート依頼、そして構造化出力のスキーマは、地域指定の対象外で域外で処理・保存されうる[2]。スキーマは自社の項目名がそのまま並ぶことがあるので、ここは知らずに済ませないほうがいい。
細かい制限も並んでいる。米国以外の地域では store=true が使えない(=サーバー側に会話を残す機能)。欧州では background=True が使えない。プロンプトキャッシュの延長は、処理非対応の地域だと域外での一時保存を伴う場合がある[2]。
03 Anthropicは設計が違う──選択肢は「米国」か「指定なし」
同じことをAnthropic側で見ると、作りがはっきり違う。ホスト名ではなくリクエストのパラメータ(inference_geo)で指定し、取れる値は"global"(既定)か "us" の2つだけ[3]。欧州も日本もない。データを置く側の設定(ワークスペースのジオ)も、現時点では米国が唯一の選択肢で、ワークスペース作成時にしか決められず後から変更できない。
制約もある。inference_geo が使えるのはClaude 4.6以降のモデルで、それより前のモデルに付けると400エラーが返る[3]。また、この指定が効くのはClaude API(直接)とClaude Platform on AWS だけで、Amazon BedrockとGoogle Cloud経由では「どのエンドポイントを叩いたか」で地域が決まるため対象外。Microsoft Foundry経由では、代わりに米国内で処理するデプロイ形態を選ぶ。OpenAI互換エンドポイント経由でも使えない。
設計として効いているのは、結果が返ってくる点だ。レスポンスの usage.inference_geo に、そのリクエストが実際にどこで処理されたかが入って返る[3]。指定しっぱなしにせず、後から確認できる。組織単位では、ワークスペース設定で「使える地域を制限する」「省略時の既定地域を決める」こともできる。
04 指定すると10%高い──両社とも同じ倍率
地域を指定すると、料金が上がる。OpenAIの価格ページには「地域処理(データ所在地)のエンドポイントは10%の上乗せ」と書かれている(2026年3月5日以降にリリースされ、データ所在地の対象となるモデルが対象)[4]。
Anthropicはinference_geo: "us" を標準料金の1.1倍として明記している[3]。対象は入力・出力・キャッシュへの書き込み・キャッシュからの読み出しの全部。さらに、容量を先に確保するPriority Tierを使っている場合、1トークン使うごとに1.1トークン分が枠から引かれる。
この10%は、開発者の手元にも降りてきている。8月21日に公開されたClaude Code 2.1.239では、費用の見積もり(/cost・ステータスライン・予算上限の指定)にこの1.1倍が反映されるようになった[5]。表示が現実に追いついた、という細かいが実務的な変更だ。
05 実際に叩いてみた──同じ鍵で3通りに割れた
ここまでは書いてあることの整理だ。では普通のAPIキーで地域ホストに投げたらどうなるか。CAGの通常のOpenAIアカウント(データ所在地の承認は受けていない)で、3つのホストに同じ最小リクエストを5回ずつ、計15回送って集計した[6]。
| ホスト | 結果(5回) | 返ってきた内容 |
|---|---|---|
us.api.openai.com | 401 × 5 | 「誤った地域ホスト名でアクセスしようとしました。api.openai.com へリクエストしてください」(incorrect_hostname) |
eu.api.openai.com | 401 × 4/200 × 1 | 「このエンドポイントは地域制限が有効なプロジェクトのみ利用できます」。ただし5回に1回は生成が通った |
jp.api.openai.com | 200 × 5 | エラーにならず、ふつうに生成結果が返る |
読み取れることは2つある。ひとつは、この機能は自分で有効にできるものではないということ。ドキュメントにも、利用にはOpenAIの営業経由で適格性を確認する必要があり、米国以外の地域を使うには不正利用監視に関する承認と契約の修正が要る、と書かれている[2]。米国ホストの拒否文面が「api.openai.com へリクエストしてください」と案内で終わっているのは、その状態を素直に表している。
もうひとつが実務的に重要で、日本のホスト名は、承認が無くてもエラーにならずに通ってしまった。返ってきたのは普通の生成結果で、応答のどこにも「どの地域で処理したか」を示す項目はない。200が返ることと、地域が保証されることは別だ。なぜ通るのかは公開情報からは判断できないので断定はしないが、「ホスト名を変えたから国内処理になった」と読むのは間違いになる——ドキュメント上、日本は処理に対応していないのだから。
この点で、実際の処理地を応答に入れて返すAnthropicの作りは検証できるぶん扱いやすい。データの置き場所を決めるときは、設定できるかどうかだけでなく、設定どおりに動いたことを後から確認できるかまで見ておきたい。
関連記事 | 「残すか」の話はこちらゼロデータ保持(ZDR)とは何か ──OpenAIが「中身を見ずに不正を見張る」方式を発表、Claudeの30日保持との違いを解説
→
06 まとめ──「国内で処理」は、まだ買えない
| 知りたいこと | OpenAI | Anthropic |
|---|---|---|
| 指定の仕方 | ホスト名の接頭辞(us. / eu. など) | リクエストの inference_geo |
| 保存を日本にできるか | できる(承認が必要) | できない(ワークスペースは米国のみ) |
| 処理を日本にできるか | できない(処理対応は米国・欧州・UAE) | できない(us か global の2択) |
| 追加料金 | 10%上乗せ | 1.1倍(キャッシュ含む全項目) |
| 実際の処理地を確認できるか | 応答に項目なし | usage.inference_geo で返る |
| すぐ試せるか | 営業経由の承認が必要(実測でも拒否) | 対応モデルなら指定可(4.6より前は400) |
「データを国内から出さない」を本気で満たすなら、今の選択肢は国内で動かせるモデルを自社基盤に置く方向になる。一方で、多くの業務は「国内保存+米国処理」で要件を満たせることも多い。大事なのは、どちらを選んだかを社内で言葉にしておくことだ。「AIは国内で処理しています」と言えるかどうかは、契約書とホスト名の両方で決まる。
脚注・出典
- OpenAI「Changelog」2026年8月21日の項(Globalジオのプロジェクトのキーで、接頭辞付きドメインを使ってリクエスト単位に地域処理を選べる)/developers.openai.com/api/docs/changelog
- OpenAI「Your data」ガイド Data residency controls 節(地域別の対応表・追加要件・システムデータ・エンドポイント制限)/developers.openai.com/api/docs/guides/your-data
- Anthropic「Data residency」ドキュメント(
inference_geoの値・対応モデル・提供経路・ワークスペースジオ・1.1倍の料金・usage.inference_geo)/platform.claude.com/docs/en/manage-claude/data-residency - OpenAI「Pricing」ページの注記(地域処理エンドポイントは10%上乗せ。2026年3月5日以降にリリースされ対象となるモデルが対象)/developers.openai.com/api/docs/pricing
- Claude Code CHANGELOG 2.1.239(費用見積もりに米国限定推論の1.1倍を反映)。公開日は npm レジストリの公開時刻(2026年8月21日)で確認/github.com/anthropics/claude-code
- 実測は2026年8月23日、CAGの通常のOpenAIアカウント(データ所在地の承認なし)から
/v1/responsesに同一の最小リクエストを各ホスト5回ずつ送信した結果。ステータスコードとエラー本文のみを記録している。時期・アカウント・地域によって挙動は変わりうる。
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