DeepSeekが2026年7月31日、DeepSeek-V4-Flashの正式版(0731)を公開しました。APIが差し替わり、同時にモデルの重み(ウェイト=学習の結果できあがった数値のかたまり)がMITライセンスでHugging Faceに置かれています。
目を引くのは、モデルを大きくしていないことです。パラメータ数もアーキテクチャも4月のプレビュー版とまったく同じで、変えたのは訓練の後半にあたる工程だけ。それだけで、AIエージェントの実力を測るベンチマークが軒並み跳ね上がりました。コーディングを自動で進める力を測るDeepSWEという指標では、7.3から54.4へ7倍以上になっています。
この記事で分かることは4つです。①7月31日に何が変わったのか、②公式がClaude Opus 4.8と並べて出した比較表をどう読むべきか、③出力100万トークンあたり$0.28という価格の位置、④その安さが成立する条件——近く導入が予告されている「ピーク時2倍」の料金帯が、日本の業務時間とほぼ重なっている件。
数値・仕様はすべてDeepSeekの公式チェンジログ、Hugging Faceのモデルカード、公式の料金ページに基づくもので、CAG自身の検証ではありません(出典は脚注)。
01 何が起きたのか ──APIの更新と、MITでの重み公開
公式チェンジログ(2026年7月31日付)に書かれている事実は3つです。
- V4-Flashの正式版APIがパブリックベータとして提供開始。 呼び出し方は変わらず、モデル名に
deepseek-v4-flashを指定すれば最新版になります。 - Responses API形式にネイティブ対応。 あわせてCodex(OpenAIのコーディングエージェント)向けに個別に適合させたと明記されています。
- V4-Proの正式版も近く出すと予告されています。
同じ日、Hugging Faceに DeepSeek-V4-Flash-0731 が公開されました。ライセンスはMIT——商用利用も改変も再配布も認める、最も緩い部類のライセンスです。公開時刻は日本時間の7月31日16時30分ごろでした[2]。
ひとつ、正確に押さえておきたい点があります。モデルカードからリンクされている技術レポートは2026年4月26日に提出されたV4シリーズのもので、今回のために書き下ろされた新しい論文ではありません。アーキテクチャが変わっていないので、当時のレポートがそのまま当てはまる、という関係です[4]。
02 大きくしていない ──変えたのは訓練の後半だけ
公式チェンジログとモデルカードの両方に、同じ趣旨の一文があります。「DeepSeek-V4-Flash-0731は、プレビュー版とモデル構造もサイズも同じで、再ポストトレーニングのみを行った」。ポストトレーニングとは、事前学習を終えたモデルに対して、受け答えの仕方や道具の使い方を仕込む後半の工程のことです。
| 項目 | プレビュー版(2026年4月) | 正式版 0731(2026年7月31日) |
|---|---|---|
| 総パラメータ | 284B | 284B(同じ) |
| 推論時に動く量 | 13B | 13B(同じ) |
| コンテキスト長 | 100万トークン | 100万トークン(同じ) |
| 変更点 | — | ポストトレーニングのやり直しのみ |
その結果が、次の数字です。
同じ大きさの、同じ形をしたモデルです。伸びしろが「規模」ではなく「訓練のやり方」の側に、まだ大量に残っていたということになります。
前日の7月30日には、OpenAIがGPT-5.6の価格を最大80%引き下げています。あちらも原資は「新しいモデルを出した」ことではなく、提供コストを技術で削ったことでした。2日続けて、モデルを新しくせずに中身の効率だけを上げる動きが並んだ格好です。
関連記事 | 前日に起きたことGPT-5.6が最大80%値下げ ──OpenAIの価格改定と、AIエージェントの運用コストがどう変わるかを解説
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03 Opus 4.8と並べた表の、正しい読み方 ──「追いついた」ではない
ここが今回いちばん伝えたい部分です。
公式チェンジログには、プレビュー版とV4-Proとの比較しか載っていません。ところがHugging Faceのモデルカードには、比較の列が2つ多いのです。中国の別チームが出しているGLM-5.2と、Anthropicの最上位モデルClaude Opus 4.8が並んでいます。同じ発表でも、置かれた場所によって読み取れる情報が違います。
| ベンチマーク | V4-Flash-0731 | GLM-5.2 | Claude Opus 4.8 | Opusとの差 |
|---|---|---|---|---|
| Agents' Last Exam | 25.2 | 23.8 | 25.7 | −0.5 |
| AutomationBench Public | 25.1 | 12.9 | 27.2 | −2.1 |
| Terminal Bench 2.1 | 82.7 | 81.0 | 85.0 | −2.3 |
| DSBench-FullStack † | 68.7 | 61.8 | 71.6 | −2.9 |
| DeepSWE | 54.4 | 46.2 | 58.0 | −3.6 |
| Toolathlon-Verified | 70.3 | 59.9 | 76.2 | −5.9 |
| Cybergym | 76.7 | — | 83.1 | −6.4 |
| DSBench-Hard † | 59.6 | 54.5 | 71.7 | −12.1 |
| NL2Repo | 54.2 | 48.9 | 69.7 | −15.5 |
† の2つはDeepSeekの社内テストセットです。
公式の表現は「最強クラスの商用モデルとおおむね競争できる(broadly competitive)」であって、追い抜いたとは書かれていません。実際、9項目すべてでOpus 4.8が上です。ただし、差の出方が一様ではありません。
ほぼ並んだのは、与えられたツールを使って手順をこなす種類の課題です。 Agents' Last Examで0.5差、Terminal Bench 2.1で2.3差。誤差とは言えませんが、用途によっては十分に選択肢に入る距離です。
はっきり差が残っているのは、ゼロから設計してコード一式を組み上げる種類の課題でした。 自然言語の指示からリポジトリを作るNL2Repoで15.5差、難しめのコーディング課題を集めたDSBench-Hardで12.1差。ここは2倍近い開きがある項目もあります。
読み替えるとこうなります。決められた手順を回させる用途なら、選択肢に入る。一から作らせる用途では、まだ上位の商用モデルに分がある。 「オープンウェイトのモデルが商用最上位に追いついた」と一括りにすると、この線引きが見えなくなります。
いっぽう、同じくオープンなウェイトを公開しているGLM-5.2に対しては、公表されている8項目すべてで上回っています。競争が実際に起きているのは、主にこちら側です。
04 値段 ──出力100万トークンで$0.28
公式の料金ページ(2026年8月1日閲覧)の数字です。単位は100万トークンあたり。
| モデル | 入力(キャッシュヒット) | 入力(キャッシュミス) | 出力 |
|---|---|---|---|
| deepseek-v4-flash | $0.0028 | $0.14 | $0.28 |
| deepseek-v4-pro | $0.003625 | $0.435 | $0.87 |
| (参考)GPT-5.6 Luna | — | $0.20 | $1.20 |
前日に80%値下げされたばかりのGPT-5.6 Lunaと出力で比べると、$1.20に対して$0.28=およそ77%安い計算になります。入力側は$0.20対$0.14で3割ほどの差ですから、出力が長くなるエージェント用途ほど差が開く構造です。
もうひとつ効くのが、キャッシュヒット時の入力単価$0.0028です。長い手順書やシステムプロンプトを毎回頭に付けて送る使い方——エージェントではごく普通の作りです——だと、2回目以降の入力がこの単価になります。
05 その安さには、条件がついている ──ピーク時2倍の予告
料金ページの脚注に、見落とせない予告があります。
DeepSeek APIは近くピーク/オフピーク料金制を導入する。ピーク時間帯は通常価格の2倍となり、すべての課金項目に適用される。ピーク時間帯は毎日9:00〜12:00と14:00〜18:00(北京時間)。適用開始日は公式発表による。
北京時間は日本時間より1時間遅れています。日本時間に直すと10:00〜13:00と15:00〜19:00。
つまり、日本の会社の業務時間のうち、昼をはさんだ主要な時間帯がそっくりピーク料金に入ります。日中に社員が使う社内チャットや、営業時間中に動く顧客対応エージェントは、この2倍側に当たることになります。逆に、夜間に回す集計や早朝の定期処理は通常価格のままです。
「出力$0.28」を前提に月額を見積もるなら、自社の処理が1日のどの時間帯に集中しているかを先に数えておいたほうが安全です。適用開始日はまだ発表されていないので、現時点では確定したコストではなく、織り込んでおくべき前提として扱うのが妥当でしょう。
06 どう試すか ──3つの経路と、試す前の注意
① APIをそのまま叩く
https://api.deepseek.com(OpenAI互換)と https://api.deepseek.com/anthropic(Anthropic互換)の両方が用意されています。既存コードのベースURLとモデル名を差し替えるだけで動く形です。Responses API形式にも対応していますが、こちらは現時点でFlashのみで、Proは2026年8月上旬に対応予定と明記されています[3]。
② Ollama経由でコーディングエージェントにつなぐ
Ollamaに deepseek-v4-flash:0731-cloud が登録されており、ollama launch claude --model deepseek-v4-flash:0731-cloud のような1行でClaude Code / OpenCode / Hermes Agent / OpenClaw から呼び出せます[5]。ただしこれはOllamaのクラウド実行であって、手元のマシンで動かしているわけではありません。名前から誤解しやすいところです。
③ 重みを落として、自社の環境で動かす
MITライセンスなので、利用条件そのものはかなり緩いです。ただし総パラメータ284Bのモデルですから、動かす環境の要件は自分で確かめる必要があります。オープンウェイトを自社で持つ判断そのものについては、以前まとめました。
関連記事 | 自社で動かす条件Kimi K3のオープンウェイトとは何か ──「世界最大のAIが無料」の中身と、自社で動かす条件を解説
→
試す前に知っておきたいこと
- 社内テストセットが混ざっている。 公開されたベンチのうちDSBench-FullStackとDSBench-Hardの2つはDeepSeekの社内テストセットで、第三者が同じ条件で再現することはできません。
- 測定に使われた実行環境は、まだ公開されていない。 コーディングエージェント系の評価は「DeepSeek Harnessのminimalモード」という同社のフレームワークで測られていますが、これは
to be released=これから公開されるものです。推論の強さは最大(max)、temperature=1.0、top_p=0.95という設定でした。手元の実行環境が違えば数字は変わります。 - 推論の強さは3段階。
reasoning_effortにlow/high/maxが指定できます。ベンチの数字は最上段のmaxでのものなので、費用を抑えるために下の段を使えば結果も変わります。 - チャットテンプレートの形式が独特。 一般的なJinja形式のテンプレートは同梱されておらず、専用の
encodingフォルダにあるPythonスクリプトでメッセージを組み立てる方式です。既存の実装をそのまま載せ替えるつもりなら、ここは事前に見ておいたほうがいいでしょう。 - 本記事の数値はすべて公式発表に基づくもので、CAGが独自に検証したものではありません。
07 まとめ ──規模ではなく、訓練の側に余地が残っていた
| 観点 | プレビュー版(2026年4月) | 正式版 0731(2026年7月31日) |
|---|---|---|
| モデル構造・サイズ | 284B / 13B活性・100万トークン | 同じ |
| 変更点 | — | ポストトレーニングのみやり直し |
| DeepSWE(コーディング) | 7.3 | 54.4 |
| ライセンス | — | MIT |
| Responses API / Codex対応 | — | 対応(Responses APIはFlashのみ) |
| 出力単価(100万トークン) | — | $0.28 |
| 価格の注意 | — | ピーク時2倍を予告(日本時間10-13時/15-19時) |
- 大きくしなくても伸びた。 構造もサイズも据え置きで、ポストトレーニングをやり直しただけ。規模の側ではなく訓練の側に、まだ余地が残っていたことになる。
- 「商用最上位に並んだ」ではない。 9項目すべてでOpus 4.8が上。ただし手順をこなす系は0.5〜3.6差で肉薄、ゼロから作る系は12以上の差。表は項目ごとに読む。
- 単価だけで判断しない。 出力$0.28は確かに安いが、ピーク時2倍の予告が日本の業務時間帯にそのまま重なる。自社の処理が何時に動いているかを先に数える。
電脳技巧集団(AI職人ギルド)
AIエージェントの設計・実装を手がけています。モデルの選定と運用費の見積りについても相談を受けています。相談する
出典
- DeepSeek API Docs「Change Log」2026年7月31日付。2026年8月1日にCAGが閲覧して確認。api-docs.deepseek.com/updates/
- Hugging Face「deepseek-ai/DeepSeek-V4-Flash-0731」モデルカード(ベンチマーク比較表・MITライセンス・公開日時)。huggingface.co/deepseek-ai/DeepSeek-V4-Flash-0731
- DeepSeek API Docs「Models & Pricing」2026年8月1日にCAGが閲覧して確認。api-docs.deepseek.com/quick_start/pricing
- arXiv:2606.19348「DeepSeek-V4: Towards Highly Efficient Million-Token Context Intelligence」2026年4月26日提出。V4シリーズ(Pro / Flash)の技術レポート。arxiv.org/abs/2606.19348
- Ollama「deepseek-v4-flash」2026年8月1日にCAGが閲覧して確認。ollama.com/library/deepseek-v4-flash
- GPT-5.6 Lunaの価格は2026年7月31日時点の公表値。CAG既報記事を参照。
本記事のベンチマーク値・価格はDeepSeekおよび各社の公表値であり、CAG自身の検証ではない。









