Claudeが​書いた​文章に​「見えない​透かし」が​入るようになった​ ──何が​付いて、​何は​分からないのかを​解説

Anthropicが公式ヘルプで、Claudeの出力に機械可読な印を入れる方針を公表しました(2026年8月10日更新)。文章には見えない透かし、ファイルにはC2PAの署名付き来歴データが入り、適用は全世界です。ただし公式自身が「印はAIが書いた証明にならない」と明記しています。

甲斐ショウジ甲斐ショウジ
CAG主宰/合同会社ATK CAIO(最高AI責任者)
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技術Claudeが書いた文章に「見えない透かし」が入るようになった ──何が付いて、何は分からないのかを解説

Anthropicが、Claudeの出力に「機械が読み取れる印」を入れる方針を公式ヘルプで公表した(記事の最終更新は2026年8月10日)[1]。EUのAI法(AI Act)第50条(2)にひもづく「AI生成コンテンツの透明性に関する行動規範」に署名したことに伴う対応で、2026年8月2日以降に出た新しいClaudeモデルから、全世界で適用される

入るのは2種類だ。文章には目に見えない透かしが織り込まれ、画像などのファイルにはC2PAという規格の署名付き来歴データが付く。

ただし、この発表でいちばん大事なのは「何が分かるか」ではなく「何は分からないか」のほうで、しかもそれを公式が自分で列挙している。印が見つかっても「Claudeが書いた」ことの証明にはならない——人が書いた文章をClaudeに校正・翻訳させただけでも印は付くからだ。そして印が無くても「AIが書いていない」ことにはならない。つまりこの仕組みは、AIかどうかを判定する道具ではない

この記事では、①何が入るのか ②どこまで残り、どこで消えるのか ③なぜ今なのか ④Claudeを業務や自社サービスで使っている側は何をすればいいのか——を、公式の記載だけを根拠に見ていく。

文書エディタの右側に来歴パネルが並び、テキストの透かしとC2PAメタデータの2種類の印が表示されているイメージ
Claudeの出力には2種類の印が入る。文章には見えない透かし、ファイルにはC2PAの署名付き来歴データ。ただし検出の手段はまだ公開されていない(イメージ)

01 ​何が​入るのか──2種類の​「印」

公式は、Claudeが生成・処理したコンテンツに2つの補完的な手法で印を付ける、と書いている。

1つ目は、文章に埋め込む透かし。サポート対象のモデルが文章を生成するとき、目に見えない透かしをテキストそのものに織り込む。見えないし、内容・品質・読みやすさは変わらないと明記されている。透かしはテキストの一部なので、コピー&ペーストで他所に貼っても一緒に移動し、ある程度の編集を経ても残ることがある

ここで効いてくるのが、この透かしはモデルのレベルで適用されるという点だ。公式の表現では「どのClaude製品・どの画面から出てきたテキストであっても存在する」。製品や使い方を変えても避けられない、という意味になる。

2つ目は、ファイルに付ける署名付きの来歴データ。Claudeが .svg .png .jpg といったファイルを生成すると、C2PA(Coalition for Content Provenance and Authenticity=コンテンツの来歴と真正性に関する連合)という業界標準に沿った来歴データを添付する。署名付きなので、そのファイルが後から改ざんされたかどうかも検出できる

TWO KINDS OF MARKS 文章=埋め込み透かし テキストそのものに織り込む コピペでも移動する/一部の編集では残る ファイル=C2PAの来歴データ .svg / .png / .jpg に添付する 署名付き=改ざんされたかどうかも分かる 透かしはモデルのレベルで適用される=どのClaude製品・どの画面から出た文章でも入る API/Claude/Claude Code/Claude Cowork/Claude Tag、AWS・Google Cloud・Microsoft Foundry 経由も、全世界
2つの手法は補完的に使われる。文章側はモデルの中で織り込まれるため、製品や経路を変えても付いてくる(公式ヘルプの記述をもとに作図)
対象公式の記載
モデル2026年8月2日以降にローンチしたClaudeモデルは、ローンチ時点で対応。それ以前のモデルにも対応作業中(法律上の移行期間あり)
製品Claude Platform(API)/Claude/Claude Code/Claude Cowork/Claude Tag
文章生成されたテキストすべてに埋め込み透かし
ファイルClaudeがファイルを扱う場面で来歴データ(.svg .png .jpg など)
クラウド経由AWS・Google Cloud・Microsoft Foundry 経由でも透かしは適用。署名付き来歴データは、プラットフォームの機能によっては非対応
地域Claudeが提供されている全世界

EUのルールに対応するための措置だが、適用範囲は全世界である点は押さえておきたい。日本で使っていても、同じように印が入る。

02 いちばん誤解される​ところ​──印は​「AIが​書いた​証明」ではない

公式ヘルプには「Limitations(限界)」という節があり、実務ではここがいちばん効く。要点は2方向ある。

(1)印が見つかっても、決定的ではない。 公式は、印の検出は「そのコンテンツがClaudeによって処理された可能性がある」ことを示すだけで、それ自体では来歴の全体を確定しない、と書いている。理由として挙げられているのが次の2つだ。

  • Claudeが原著者とは限らない。人は校正・翻訳・要約・ファイル変換にClaudeをよく使う。元の考えや文章が他所から来ていても、出力には印が付く
  • 処理の後に変わっている可能性がある。印の付いたコンテンツは、あとから編集・抜粋・他の素材との結合が行われうる

(2)印が無くても、AI生成でないとは言えない。 これも公式が明記している。詳しくは次の章で見る。

WHAT A MARK TELLS YOU 印が検出された Claudeが書いた=ありうる 人が書いた文章を校正・翻訳させただけ=これでも印は付く 印が検出されない 人が書いた=ありうる AIが書いたが、印が消えた・付かなかった=短い文章・大幅な編集・形式変換など どちらの列も、片方に決められない =この印を「AIが書いたかどうかの判定」に使うことはできない
印あり・印なしのどちらにも2つの可能性が残る。公式が挙げている限界をそのまま図にすると、判定には使えないことが見える

この2つを合わせると、結論は1つになる。この印を「AIが書いたかどうかの判定」に使ってはいけない。 採用選考の課題、学校の課題、取引先からの納品物——「透かしが出たからAI」「出ないから人間」という運用は、どちらの向きにも誤りうる。公式が自分でそう書いているのだから、ここは動かない。

一方で、用途を「来歴の手がかり」に限れば有用だ。とくにファイル側のC2PAは署名付きなので、受け取った画像が途中で改ざんされていないかを確かめる方向には使える。

03 どこで​消えるのか──公式が​挙げる​5つの​経路

「印が付かない/消える」ケースとして、公式は5つを挙げている。

WHERE MARKS DISAPPEAR 印の付いた文章・ファイル 対応前のモデルで生成された 大幅に編集・言い換え・翻訳 文章が短すぎる(信号が足りない) 形式変換・保存し直しスクリーンショット 非対応の機能・ファイル形式 順次対応中他の文章に混ぜた場合も短文は検出できないメタデータが剥がれるその方式が使えない =「印が無い」ことは、何の証明にもならない
スクリーンショットを撮るだけでもファイルの来歴データは失われる。文章側も、短ければ検出できるだけの分量が残らない(公式ヘルプの記述をもとに作図)

そして、もう1つ押さえておきたい事実がある。検出の手段は、まだ公開されていない。 公式は「利用者と第三者がClaudeの透かしと来歴データを検出できるようにする作業を進めている」「検出の仕組みの詳細は今後の技術ドキュメントで共有する」と書いている。

裏を返せば、今日の時点では、第三者が確かめる方法は無い。「印が入っている」ことと「誰でも確認できる」ことの間には、まだ距離がある。自社の検証フローに組み込みたい場合は、公開を待つことになる。

04 ファイル側の​C2PAは、​来歴を​「署名して」残す

文章の透かしと違い、ファイル側はC2PAという既存の業界標準に乗っている。写真や画像の来歴を記録するための仕組みで、いつ・何によって作られ、どんな編集が加えられたかを、デジタル署名付きでファイルに埋め込む。

画像ファイルの来歴メタデータを表示する管理画面のイメージ。署名の有効性、AIツールによる生成、編集履歴、改ざんチェックが並ぶ
C2PAは「誰が作ったか」に加えて「その後に改ざんされていないか」も検証できる。文章の透かしより情報量が多い代わりに、形式変換やスクショで簡単に失われる(イメージ)

署名付きであることの意味は大きい。公式の表現では、署名付きのメタデータのラベルが存在すれば、そのファイルがClaudeによって処理されたことを示すと同時に、改ざんの有無を検出できる。画像を受け取る側にとっては、来歴より改ざん検知のほうが実用的かもしれない。

弱点も明確だ。メタデータはファイルの外側に付いているため、形式を変換したり、保存し直したり、スクリーンショットを撮ったりすれば失われる。文章の透かしが「テキストそのものに織り込む」と説明されているのと対照的で、この2つは残りやすさの性質が違う。

05 な​ぜ​今なのか──EUの​ルールと、​約190社の​署名

背景にあるのはEUのAI法(AI Act)だ。第50条は、AIシステムの提供者と利用者に対する透明性の義務を定めており、その実装を助けるものとして「AI生成コンテンツの透明性に関する行動規範(Code of Practice on Transparency of AI-generated Content)」が作られた[2]

TIMELINE 2026 6月10日規範の起草完了 7月8・9日委員会とAI理事会が「適合的」と判断 7月末約190の企業・団体が署名 8月2日義務の適用開始この日以降の新モデルが対象 8月10日Anthropicがヘルプ記事を更新 規範が求めるのは「機械可読な印を付け、人工的に生成・加工されたものだと検出可能にすること」 そしてその方式が、技術的に可能な範囲で効果的・相互運用可能・堅牢で信頼できること
行動規範は2026年6月10日に起草が完了し、7月に適合と判断され、8月2日から義務の適用が始まった。Anthropicはこの規範の署名者にあたる(欧州委員会の公表をもとに作図)

欧州委員会の公表によれば、規範は2026年6月10日に起草が完了し、7月8日・9日に委員会とAI理事会が「適合的」と判断7月末までにおよそ190の企業・団体が署名した。そして2026年8月2日から、AI生成コンテンツの表示に関する義務の適用が始まっている

Anthropicが署名したのはこの規範で、注目すべきはEU向けだけの対応にせず、全世界に適用すると決めた点になる。日本の利用者にとっては、EUのルールが実質的な世界標準として降りてくる形だ。

06 ​「Claudeを​組み込んでいる​側」には、​自社の​義務が​ある

日本の事業者にとって実務的にいちばん重い一行が、公式ヘルプの最後にある。要約するとこうだ——Claudeを自社のプロダクトに組み込んで提供しているなら、第50条が自社のプロダクトやサービスに何を求めるかは、自分たちで独立して評価する必要がある

Anthropicが印を付けることと、その出力を使うあなたの会社が透明性の義務を果たすことは別だ、という宣言になっている。Claudeを組み込んだチャットボットやライティング支援をEU向けに提供しているなら、自社側にも表示の義務が発生しうる。公式は「あなた自身の透明性義務を果たせるよう支援するのが目標で、マーキングと検出の方式については技術的なガイダンスを共有していく」とも書いている。

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07 では、​今から​何を​しておくか

検出ツールが公開されるまで待つしかない部分はあるが、待っている間にできることが3つある。

案件ごとにAIをどの工程で使ったかを記録する社内管理画面のイメージ。下書き・校正・翻訳・画像生成の工程が記録済みとして並ぶ
外部の印を待つより、自社の記録のほうが早く・確実に説明できる。案件ごとに「どの工程でAIを使ったか」を残しておく(イメージ)
  • 社内のルールを「印」に依存させない。納品物のAIチェックや採用課題の判定に透かしを使う設計は、そもそも成立しない(02章)
  • 記録は自社で持つ。どの工程でAIを使ったか(下書き・校正・翻訳・画像生成)を案件ごとに残す。外部の印より確実で、説明もできる
  • 顧客への説明を先に用意する。「この成果物はAIを使って作っていますか」と聞かれたときの答えを、案件単位で持っておく

CAGでも、記事や成果物の制作にAIを使っていることは公開している。印が付くかどうかに関係なく、どこでAIを使ったかを自分で説明できる状態にしておく——今回の公表が指しているのは、結局その方向だと思う。

透かしは、AIが書いたかどうかを言い当てる装置ではない。説明する責任を、外部の技術に肩代わりさせられないという話でもある。

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出典・注記

  1. Anthropic ヘルプセンター「How Claude marks AI-generated content」(最終更新 2026年8月10日。対象モデル・製品・地域、2つのマーキング方式、限界、検出ドキュメントが今後公開である旨、組み込み事業者への注意はすべてこの記事の記載)https://support.claude.com/en/articles/16266773-how-claude-marks-ai-generated-content
  2. 欧州委員会「Code of Practice on Transparency of AI-generated Content」(起草完了 2026年6月10日/委員会とAI理事会による適合の判断 7月8日・9日/署名 約190の企業・団体/AI生成コンテンツの表示義務の適用開始 2026年8月2日)https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/policies/code-practice-ai-generated-content
  3. C2PA(Coalition for Content Provenance and Authenticity)は、コンテンツの来歴を記録するための業界標準
  4. 本記事の内容は上記の一次ソースの記載に基づく。CAGによる検出の実機検証は行っていない(検出手段が未公開のため)

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