ヒアリングを、​AIに​任せる​ ──フォーム1枚を​「要件の​揃った​実装指示」に​変える​AIエージェントを​作った

制作の最初でいちばん時間が溶ける「ヒアリング」を、AIに任せる仕組みを作った。短いフォームがそのままAIとの会話に変わり、GoogleマップのURLから店舗情報を確かめ、素材を集め、最後は「要件の揃った実装指示」を自動で書き出す。作る中でいちばん効いたのは、AIを賢く喋らせることより、会話の"状態"をどう設計するかだった。

甲斐ショウジ甲斐ショウジ
CAG主宰/合同会社ATK CAIO(最高AI責任者)
制作事例9分で読めます
制作事例ヒアリングを、AIに任せる ──フォーム1枚を「要件の揃った実装指示」に変えるAIエージェントを作った

制作の仕事で、いちばん最初に、いちばん時間が溶けるのが「ヒアリング」です。何を作りたいのか、お店の情報は、素材は、納期は——それを聞き出して、整理して、抜けを埋める。毎回ゼロから、往復のメールで。

私たちは、この工程をAIに任せる仕組みを作りました。名前は「御用聞きAI」。お客さまは短いフォームに答えるだけ。するとそのままAIとの会話に切り替わり、GoogleマップのURLからお店の情報を確かめ、参考サイトや素材を集め、最後は「要件の揃った実装指示」を自動で書き出します。いまは私たち自身と、パートナーのLP制作会社が、本番の受注業務で使っています。

作ってみて分かったのは、この手のAIで効くのは「賢く喋らせること」ではない、ということでした。効いたのは会話の"状態"の設計——たとえば、お客さまの「はい」を、いつ・何に対する「はい」として扱うか。ここを雑に作ると、間違った情報が"確認済み"の顔をして残ります

この記事では、①何を作ったか ②ヒアリングがなぜ難しいか ③本番で効いた設計判断(特に「はい」の扱い)④その結果、を順に書きます。専門用語は都度かみくだきます。導入先の企業名・サービス名・担当者名は伏せた匿名ケーススタディです。

ダークなUIモック。左に短い入力フォーム、矢印でAIチャット、さらに矢印で構造化された実装指示のドキュメントへ変わっていく3段構成
短いフォームが、AIとの会話になり、最後は「要件の揃った実装指示」に変わる。御用聞きAIが束ねているのは、この一本の流れだ。

01何を​作ったか​ ──フォーム1枚が、​実装指示に​なるまで

御用聞きAIは、受注業務の「入口から実装の一歩手前まで」を一本につなぎます。流れはこうです。

  1. フォーム:お店・サービスのこと、要望、連絡先を数項目。答えやすい順に並べ、連絡先は最後にしました。
  2. AI会話へ切替:送信すると、その内容を読んだAIが会話を始めます。足りない要件を、雑談のように埋めていきます。
  3. 店舗情報の自動確認:GoogleマップのURLを貼ると、店名・住所・電話・営業時間を取得し、会話で「この情報で合っていますか?」と確かめて確定します。
  4. 素材集め:参考サイト、ロゴ、写真などをその場でアップロード。会話履歴に残ります。
  5. 実装指示の自動生成:必須が揃うと、実装担当(人+AI)がそのまま着手できる指示書を書き出します。
  6. 人が引き継ぐ:料金や難しい判断は、AIが抱え込まずに人へエスカレーションします(HITL=最終判断は人間)。

「AIチャットを置きました」で終わる話ではありません。フォーム・会話・外部データ照合・素材・成果物生成・人への引き継ぎを、ひとつの流れとして設計したのが、この制作の中身です。

フォーム数項目 AI会話要件を埋める 店舗情報確認して確定 素材アップロード 実装指示自動生成 人へ 単発のチャットボットではなく、入口から実装の一歩手前までを一本で設計した。
御用聞きAIが束ねる一本の流れ。要所に「確認」と「人へ引き継ぎ」のゲートを置いている。

02なぜ​「ヒアリング」は、​こんなに​難しいのか

発注する側も、受ける側も、ヒアリングでつまずく理由ははっきりしています。

受ける側は、毎回ゼロから同じことを聞き、聞き漏らすと後で手戻りになります。素材はなかなか集まらず、メールの往復で数日が溶けます。発注する側は、そもそも何を伝えればいいのか分からない。フォームは冷たくて、途中で面倒になって離脱します。

「じゃあAIチャットにすれば?」と思いますが、ここに落とし穴があります。会話をAIにさせると、今度は「言った・言わない」が起きる。AIが要件を取りこぼす。さらに厄介なのは、AIが取りこぼしたことに、誰も気づかないことです。人間同士なら「あれ、その話しましたっけ?」と拾えますが、AIは平然と会話を進めてしまいます。

だから難しさの本質は、「AIをどれだけ賢く喋らせるか」ではありません。会話の中で確定した事実を、どう間違いなく積み上げるか——地味ですが、ここが全部です。以降は、本番で実際にぶつかって直した設計判断を3つ紹介します。

03フォームの​送信後を、​無反応に​しない

最初の一手は、地味ですが離脱に直結します。送信ボタンを押した後の"待ち時間"です。

当初の実装は、送信処理の中で「店舗情報の取得」と「AIの最初の一言の生成」まで同期で終わらせてから画面を返していました。結果、送信から次の画面まで10秒以上、無反応。ここで多くの人が離脱します。フォームの文言をどう直しても、この沈黙は埋まりません。

直し方は、重い処理を送信から切り離すことです。送信は「会話の入れ物を作るだけ」に縮小し(実測1.7秒で遷移)、店舗情報の取得とAIの一言は、遷移した先で「入力内容を読んでいます…」と動きを見せながらストリーミング表示します。案内メールも、送信処理を待たせず後追いで送ります(=離脱した人にも届く)。

離脱の主因は、文言ではなく"無反応な沈黙"でした。 待たせるなら、せめて動きを見せる。ここは、AIうんぬんより手前のUX設計の話です。

送信直後のダークなチャットUI。入力内容を読んでいますというタイピング中の表示が出て、AIの最初のメッセージがストリームで現れている
送信後の沈黙をなくす。「入力内容を読んでいます…」と動きを見せながら、AIの最初の一言をストリームで返す。

04Googleマップの​URLから、​店の​情報を​「確かめて」確定する

次の一手です。ヒアリングで毎回聞く「店名・住所・電話・営業時間」は、GoogleマップのURLを1本もらえれば機械で取れます。Googleの Places API(お店の情報を取得するAPI)に問い合わせて、構造化された店舗情報にします。

ただし、ここには二重の罠がありました。ひとつは、お客さまが「URLが分かりません」と書いたとき。この文章をそのまま検索APIに渡すと、Places検索は"必ず何か1件返す"性質があるため、まったく無関係な海外の店舗を「確認済みの情報」として提示してしまいました。直し方は、AIが抽出した値が入力内に実在するかを検証し、地域が一致するかまで確かめるガードレールを噛ませること。「分からない」は「分からない」として扱います。

もうひとつが、より根深い問題でした。次の章で詳しく書きます。いずれにせよ、外部データは「取得して終わり」にしない。取ってきた情報を、会話で「これで合っていますか?」と本人に確認して初めて確定します。この一手間が、後工程の事故を止めます。

ダークなチャットUI。GoogleマップのURLを貼ると、店名・住所・電話・営業時間のカードが表示され、この情報で合っていますかと会話で確認している
GoogleマップのURLを、店名・住所・電話・営業時間のカードにする。そして必ず「これで合っていますか?」と会話で確認してから確定する。

05​「はい」を、​文脈に​結びつける​ ──誤りが​"確認済み"に​化ける​前に

これが、この制作でいちばん効いた設計判断です。

本番で、こんな報告が上がってきました。「正しい店名と住所を送っているのに、AIが電話番号も営業時間も取ってこない」。最初は「Places APIの取得失敗だろう」と考えました。ところが、本番の会話ログとデータベースを突き合わせて分かった真因は、まったく別のところにありました。

流れはこうです。お客さまが最初に誤った店名を入力→AIが候補を提示→お客さまが「違います」→ところが、その否定で候補が捨てられていなかった。その後の会話で、お客さまが別の文脈で言った何気ない「はい」を、システムが「さっきの誤った候補への承認」として食べてしまった。結果、間違った店が「確認済み」に昇格し、以降どの処理も「これは本人が確認した正しい情報だ」として扱いました。誤りが"確認済み"の顔をして居座り、監視にも掛からない——いちばん質の悪い壊れ方です。

BEFORE / 壊れていた 誤った候補(保存済み) 別文脈の「はい」 承認として食べる verified = true(確認済みに昇格)誤りが"確認済み"の顔で居座り、監視に掛からない AFTER / 直した設計 直前にAIが候補を提示? 肯定→確定 否定→破棄 不明→無視 「違います」で候補を破棄し、rejected に積む=同じ間違いを二度と提示しない。未確定なら新入力で再検索 「はい」は、直前の問いに紐づけて初めて意味を持つ 外部から情報を取り込む会話には、「入れる経路」だけでなく「消す経路(否定=破棄)」を必ず作る。
「はい/いいえ」は、直前のAIの問いに紐づけて初めて意味を持つ。肯定・否定・不明の3値で扱い、否定は候補を破棄して二度と提示しない。

根っこは、「はい」を文脈なしで拾っていたことです。会話AIで「はい/いいえ」を判定するなら、必ず「何に対するはいか」を紐づけないといけない。直した設計はこうです。

  • 直前のAIの発言が候補を提示していたときだけ、確認の判定をする。
  • 返事を「肯定/否定/どちらでもない」の3値で扱う。関係ない「はい」は確認として食べない。
  • 「違います」は候補を破棄し、「もう提示しない店」のリストに積む(同じ間違いを繰り返さない)。
  • 確定するまでは、新しい入力が来たら検索し直して上書きする。

一般化すると、外部から情報を取り込む会話には「入れる経路」だけでなく「消す経路」を必ず作る、ということです。訂正を受け付けない状態機械は、ユーザーから見ると「AIがちゃんと調べてくれない」という、まったく別の症状に化けます。本番の会話ログとDBを突き合わせ、誤って確定していた1件を修復しました。

06集めた​会話を、​そのまま​「実装指示」に​変える

ヒアリングのゴールは、会話を楽しむことではなく、実装が始められる状態を作ることです。御用聞きAIは、必須項目が揃うと、集めた会話・店舗情報・素材から、実装担当がそのまま着手できる指示書(Markdown)を自動で書き出します。人が議事録を清書する工程が、まるごと消えます。

そして、AIが抱え込まない線引きも設計に入れています。料金や、要件の重い判断は、AIが勝手に答えずに人へエスカレーションする(HITL=Human-in-the-Loop、最終判断は人間)。「AIに一次対応させ、難しいところは人が引き継ぐ」——この線引きを先に決めておくことが、AIを業務に載せる前提になります。この考え方は、このサイトの受注チャットAIでも同じです。

このサイトの顧客対応AIを実装した事例記事のサムネイル 関連記事 | 姉妹編・受注チャットAIこのサイトのAIは、自分たちで作った ──HITL・顧客別メモリ・メール⇄チャット双方向を実装した顧客対応AIの中身
ダークな管理画面。会話から自動生成された実装指示のMarkdownドキュメントが表示され、担当者がコピーして実装セッションに渡そうとしている
会話の最後に出てくるのは、実装担当がそのまま着手できる指示書。議事録を清書する工程が消える。

07まとめ ──​「ヒアリングの​型」を、​資産に​する

御用聞きAIは、私たちの内製ツールとして始まり、いまはパートナーのLP制作会社が本番の受注業務で使う外販プロダクトになりました。新しい導入先も、設定を1枚書けば数分で立ち上がります。作ったのは単発のチャットボットではなく、「ヒアリングの型」そのものです。

この制作から持ち帰れる3点

  • AIチャットの勝負は"賢さ"より"状態設計"。 確定した事実をどう間違いなく積むか。「はい」は文脈に紐づける。
  • 外部データは取って終わりにしない。 会話で確認して確定し、「消す経路(否定=破棄)」を必ず作る。
  • AIに一次対応、難しいところは人へ。 線引き(HITL)を先に決める。

ヒアリングは、どんな受注業務にも必ずあります。そこをAIに任せられれば、人は「作ること」と「判断すること」に集中できます。私たちが実装と検証で毎回いちばん時間を使うのも、モデルの賢さより、この線引きの設計のほうです。

出典・注記

  1. 本記事は電脳技巧集団(AI職人ギルド)自身の制作・本番運用に基づく匿名ケーススタディです。導入先の企業名・サービス名・担当者名は伏せています。
  2. 「Places API」はGoogleが提供する店舗情報の取得API。実装内容・数値(送信〜遷移の約1.7秒、送信後の10秒以上の無反応など)は自社計測・自社実装に基づきます。

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