制作事例 | AI駆動開発の現場から
「先日お送りした資料、ご覧いただけましたか?」──商談のあと、こう切り出した経験は誰にでもあるはずだ。メールに添付した提案資料は、相手が開いたのか、どこまで読んだのか、まったく分からない。PDFは重くて開かれず、共有リンクは誰にでも転送できてしまう。資料を「送って終わり」にした瞬間、その先は完全な暗闇になる。
私たち電脳技巧集団(AI職人ギルド)は、提案資料を多く扱うある支援企業のために、資料をURL一つで安全に届け、閲覧の状況まで見える社内ツールを設計・実装した。資料をアップロードすると専用URLが発行され、クライアントはダウンロード不要でブラウザを開くだけ。流出しないクローズドな空間で見せられて、誰がいつ見たかも記録される。いわば「DocSendのような仕組み」を、日本のクライアントに優しい形で自前で持つ道具だ。
この記事は、その「資料共有を、信頼できる体験に変える」仕組みをどう作ったかの記録である。安全性をどう担保し、資料をどうAIで作り・直し、現場の要望をどれだけ速く形にしたか。技術判断を主役に、匿名ケーススタディとして書く(クライアント名・利用ドメイン・認証情報は伏せ、構成・数値は自社実装の事実に基づく)。

01「送って終わり」にした瞬間、その先は見えなくなる
提案資料の共有には、現場が地味に困っている問題がいくつもある。メール添付は、相手がダウンロードして開く一手間で読まれずに終わる。PDFは重く、スマホでは特に開きにくい。汎用の共有リンクは手軽だが、URLを知っていれば誰でも見られ、転送もし放題で、機密資料には怖くて使えない。そして共通する最大の弱点が、送ったあと、相手が見たのかどうかすら分からないことだ。
営業や提案の現場では、この「見えなさ」がそのまま機会損失になる。フォローのタイミングも、刺さった資料がどれかも、勘に頼るしかない。だからこのプロジェクトのゴールは、最初から明確だった。URLをクリックするだけで開けて、流出せず、誰がどこまで見たかが分かる。 この三つを、日本のクライアントが迷わない素朴なUXで実現する。
02既製品で済ませず、自前で持つという判断
「資料を安全にリンク共有し、閲覧を追跡する」だけなら、DocSendのような海外の既製サービスがある。それでもあえて自前で作ったのには、はっきりした理由がある。既製品は英語UI中心で、日本のクライアントには馴染みにくい。料金は人数や容量で積み上がる。そして何より、クライアントが触れる入口のデザインや認証の体験を、自分たちのブランドで細部まで作り込めない。
提案資料の入口は、相手が最初に触れる「会社の顔」だ。だからこのツールは、閲覧ゲートからダッシュボードまでをクライアントのブランドカラー(落ち着いたグレーに差し色のレッド)で統一し、認証は「パスワードを入れるだけ」「リンクをクリックするだけ」という、日本のクライアントが迷わない最小の体験に絞った。既製品の制約に合わせるのではなく、自分たちの理想の体験を起点に作る──ここが、自前で持つことの一番の価値になる。
そのために割り切った技術判断もある。たとえばPDF出力は、サーバーで重い変換エンジンを動かすのではなく、ブラウザの印刷機能をそのまま使う形にした。サーバーレス環境の制約とコストを避け、「やりたいこと(PDF保存)」を一番軽い手段で満たす。派手さより、運用で壊れない素直さを選んでいる。
03クライアント閲覧者を、"会員"にしない認証設計
セキュリティ設計で最初にぶつかる分岐が、閲覧する側のクライアントを、どう認証するかだった。素直に既存の認証基盤(ログインユーザーの仕組み)に乗せる手もある。だが提案資料を見るのは、毎回違う取引先の、不特定多数の担当者だ。彼ら全員を正式なユーザーとしてデータベースに溜め込むのは、運用上も、セキュリティ上も筋が悪い。
そこで認証を二系統に分けた。資料を作る社内スタッフはメールとパスワードできちんとログインし、許可リストで管理する。一方、資料を見るクライアントは、正式ユーザーにはしない。パスワードは標準のWeb暗号技術(ブラウザ標準のため余計な依存がない)で安全に検証し、認証が通ったら、改ざんできない署名付きの一時的な通行証(cookie)を発行する。閲覧者をユーザー台帳に溜めず、それでいて「正しく認証された人だけが、その資料を、その間だけ見られる」状態を作る設計だ。
04"見えるけど、抜けない"配信のつくり
もう一つの肝が、資料の中身(HTML)をどう配信するかだ。ファイルを保存場所から直接リンクで配ってしまうと、URLさえ漏れれば誰でも生ファイルを抜ける。それでは「クローズドに見せる」が成立しない。
そこで、保存したファイルへの直リンクは一切作らない。閲覧者には、通行証(cookie)でガードされた自前の配信経路を通して、本文だけを画面に映す。さらに、その本文は隔離された枠(サンドボックス)の中で表示し、資料に紛れ込んだスクリプトは実行させない。万一、悪意あるコードが混ざった資料があっても、閲覧者のブラウザで悪さができないようにする多層の守りだ。クライアントには普通に「見える」のに、ファイルとしては「抜けない・暴れない」。この状態を作り込んだ。
05資料は、AIで作って、AIで直す
このツールのもう一つの個性は、資料そのものをAIで作り・直せることだ。テキストを渡せばClaudeがHTML資料を生成し、できた資料はそのままセキュアに共有できる。だが本当に効くのは、作ったあとの"直し"のほうだった。
プレビュー上で直したい文章をドラッグして選び、「ここをもっと丁寧に」「この段落を会社概要の上へ」と日本語で指示するだけ。AIは資料全体を作り直すのではなく、必要な箇所だけを差分で書き換える。これは編集を速く・安全にするための設計判断で、毎回まるごと再生成すると、関係ない部分まで変わってしまうからだ。画像を扱うときも工夫がある。画像データそのものをAIに書き写させると壊れやすいので、資料には「ここに画像1」という目印だけ書かせ、実際の画像はあとから機械的に差し込む。AIには言葉と構成を任せ、データの正確さはコードが守る──私たちが一貫して大切にしている役割分担だ。
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さらに、資料は一度作って終わりではない。改訂版をアップロードすると、同じ閲覧URLのまま中身が最新版に差し替わる。すでにクライアントに送ったリンクを送り直す必要はない。新旧の差分はAIが自動で要約し、過去のどの版にも切り替えて配信し直せる(ロールバック)。資料がたまってくれば、AIが本文を読んで「提案資料/見積書/議事録」などに自動分類もする。作る・直す・改訂する・整理するの全部に、AIが効いている。
06現場の要望を、その日のうちに形にする
このツールが面白いのは、できあがり方そのものだ。初版を出してから、実際に使うスタッフの「こうしたい」を聞いては、その日のうちに機能を足して出すサイクルが回った。ある一日には、チーム共有・担当者フィルタ・閲覧ゲートの作り込み・AI編集・パスワード管理・バージョン管理まで、7回のリリースが連続した。社内ツールだからこそできる、要望と改善の最短距離だ。
もちろん、速さの裏では実データに殴られている。たとえば、デザインツールが書き出した18.5MBの巨大なHTMLをアップロードしようとしたら、無反応になった。原因は、配信基盤が一度に受け取れるデータ量の上限だった。そこで、ブラウザから保存場所へ直接アップロードする方式に全面的に切り替え、進捗バーを付け、最大50MBまで扱えるようにした。この切り替えで「URLや版番号を書き換えれば他人の資料に触れられる」隙が生まれないよう、重要な値はサーバー側で必ず再計算する守りも同時に入れている。速く出すことと、雑に出さないことは両立できる。
| 現場の要望・課題 | その日に出した打ち手 |
|---|---|
| 自分の資料しか見えない | チーム全員で共有・担当者で絞り込み・実サムネイル表示 |
| 入口が素っ気ない | クライアントが最初に触れる閲覧ゲートをブランド演出で作り込み |
| 毎回作り直すのが手間 | プレビュー選択+日本語指示で、必要箇所だけAI差分編集 |
| 改訂のたびにURLが変わる | 同一URLのまま改訂反映・AI差分要約・版のロールバック |
| 大きい資料が上がらない | 直接アップロード方式へ刷新・進捗バー・最大50MB |
| 資料に画像を入れたい | 画像添付(目印方式で安全に埋め込み)を即日追加 |
07締め:資料共有を、"信頼の体験"に変える
このプロジェクトで作ったものを、改めて一言でまとめる。それは単なるファイル置き場ではなく、資料共有を「信頼できる体験」に変える仕組みだ。URLを送るだけでクライアントは迷わず開ける。機密は流出せず、閲覧の状況は送った側に見える。資料はAIで素早く作り・直し・改訂でき、現場の要望は翌日には形になる。「送って終わり」だった暗闇が、最初から最後まで見通せる明るい一本道になった。
ここでも、私たちの設計の芯は変わらない。安全性は妥協せず多層で作り込み、AIには言葉と構成を任せ、データの正確さと権限はコードが守り、最終的に何を見せるかは人が決める。派手な機能を並べることより、現場で毎日使われて壊れない素直さを優先する。そして「こうしたい」を最短で形にし続ける。これが、業務に本当に効くツールを作るということだと考えている。

電脳技巧集団(AI職人ギルド)は、こうした「業務に効くAIの道具」を、設計から実装・セキュリティ・本番運用・改善サイクルまでフルAI駆動で速く形にする。社内に眠っている「これが不便」を、翌日には動く道具に変えたい——そんなテーマがあれば、ぜひ気軽に相談してほしい。
「送って終わり」から「信頼が見える共有」へ。この違いを、一枚に。
| 観点 | メール添付・汎用リンク | このツール(セキュア資料共有) |
|---|---|---|
| 開くまで | DLして開く一手間で読まれない | URLクリックだけ・即ブラウザ表示 |
| 流出リスク | 転送し放題・誰でも閲覧 | パスワード/許可リストでクローズド |
| 閲覧の可視化 | 見たかどうか分からない | 誰が・いつ・何回をログで把握 |
| 資料の修正 | 作り直して再送 | AIで必要箇所だけ差分編集 |
| 改訂の反映 | 新URLを送り直す | 同一URLのまま最新版に差し替え |
| 安全性 | 基盤任せ・対策なし | 直リンク遮断・隔離表示の多層防御 |
※ 本記事は自社(電脳技巧集団)が設計・実装した制作事例の一次情報。クライアント名・利用ドメイン・スタッフ・認証情報は機密保護のため伏せ、構成・数値(最大50MB・閲覧ログ項目等)は自社実装の事実に基づく匿名化済みの記述。「DocSend」は近い性質の既存サービスの一般例として挙げたもので、比較ベンチマークではない。仕様は開発時点(2026-06)のv0であり、継続的に改善している。
脚注・出典
- 本ツールの位置づけは「DocSend のような、資料をリンクで安全に共有し閲覧を追跡するツール」。差別化は、日本のクライアント向けのシンプルな認証UX・ブランドに合わせた閲覧体験・AIによる資料生成/編集を自前で持つ点(自社実装)。
- 閲覧者認証はブラウザ標準のWeb暗号技術でパスワードを検証し、認証後は改ざん検知可能な署名付きの一時cookieで保護(社内スタッフのログインとは別系統)。不特定多数の閲覧者を正式ユーザーとして蓄積しない設計。
- 本文配信は保存ファイルへの直リンクを作らず、通行証で保護した自前経路を経由し、隔離された枠の中で表示してスクリプトを実行させない(情報漏えい・不正コード実行への多層防御)。PDF保存はブラウザの印刷機能を利用。
- 大容量対応では、配信基盤の一度の受信量上限を回避するため、ブラウザから保存場所への直接アップロード方式に変更(最大50MB・進捗表示)。あわせて、リクエスト値の改ざんで他資料に到達できないよう重要値をサーバー側で再導出(権限境界の強化)。
「あの資料、見てもらえたかな」を、もう終わりにしませんか。
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