「人間が​読むWiki」から​「AIが​引き継ぐ​知識」へ​ ──Google Cloudの​OKFが​名付けた、​AIエージェント時代の​知識設計

AIエージェントを毎日使うと、すぐ壁に当たる。モデルは賢いのに、前提・過去の決定・正本・禁止事項を読めないと使えない。足りないのは長いプロンプトでなく「引き継げる知識」だ。Google Cloudが公開した Open Knowledge Format(OKF v0.1)は、知識を Markdown+YAML frontmatter+ディレクトリのvendor-neutralな“束”として表す仕様で、この感覚に名前を与えた。私たちは人間とAIが共同編集するMarkdownナレッジベースを日々運用しており、OKFは「ずっとやってきたこと」に共通語がついた感覚。ただし正本はObsidian最適のまま、export層でwikilink→通常リンク・category→type・description補完して書き出すのが安全(実際にOKF互換ページを試作)。企業ナレッジをagent-readyにする導入支援の角度、v0.1 Draft/形式は質を上げない/機密のレーン分けという留保まで。外部仕様はCAG非検証=公式発表ベース、ナレッジ運用は自社一次情報。

甲斐ショウジ甲斐ショウジ
CAG主宰/合同会社ATK CAIO(最高AI責任者)
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技術「人間が読むWiki」から「AIが引き継ぐ知識」へ ──Google CloudのOKFが名付けた、AIエージェント時代の知識設計

技術ノート | AIの最新動向を、現場目線で

AIエージェントを毎日の仕事で使い始めると、すぐに同じ壁に当たる。モデルはどんどん賢くなる。コードも書ける、調査もできる、議事録も要約する。なのに、実際の仕事で使えるかどうかは、モデルの賢さだけでは決まらない。

その仕事の前提を知っているか。過去に何を決めたかを読めるか。どのファイルを正本として扱うべきか。どの判断はもう古いのか。──結局、AIに足りないのは「長いプロンプト」ではなく、毎回ゼロから説明しなくても読める"引き継げる知識"だ。

2026年、Google Cloud が公開した Open Knowledge Format(OKF) は、この感覚にはっきりした名前を与えた。[1] 私たち電脳技巧集団(AI職人ギルド)は、人間とAIが共同編集するMarkdownの知識ベースを日々運用している。だからOKFを、流行語ではなく「で、知識の持ち方はどう変わるのか」という現場目線で読み、自分たちの運用を一次情報として確かめた。なお外部仕様はCAGの検証ではなく公式発表に基づく。

ダークな画面に、Markdownファイルとフォルダのツリーが並び、左から人間が、右からAIエージェントが同じファイルを読んでいる構図。各ファイルの先頭にYAMLのfrontmatterが見え、シアンとゴールドのアクセント
人間も、AIエージェントも、同じMarkdownファイルを読む。知識を特定ツールの奥に閉じず、引き継げる"束(bundle)"として持つ——それがOKFの提案だ

01AIに​足りないのは​「賢さ」ではなく​「引き継げる​知識」

新しいセッションを開くたびに、私たちは同じ説明を繰り返してきた。「このプロジェクトはこういう前提で」「この値が正本で」「あの判断はもう古いから無視して」。モデルが賢くなっても、文脈を毎回貼り直す消耗は消えない。

本当に必要なのは、AIが作業を始める前に自分で読みに行ける"知識の置き場"だ。前回までに決めたこと、正本のありか、やってはいけないこと、誰のためのプロジェクトか。これが整っていれば、AIは「賢い新人」から「文脈を分かっている同僚」に変わる。OKFは、その置き場をどんな形で持つべきかという問いに、ひとつの答えを出した。

02OKFとは​何か​ ──Markdownの​知識bundleに​名前が​ついた

Open Knowledge Format v0.1 は、知識をMarkdownファイルと YAML frontmatter のディレクトリ構造として表現するための仕様だ。[1][3] 新しいSaaSでも、専用DBでも、独自ランタイムでもない。人間が読めて、AIエージェントも読めて、gitで差分管理できる──そういう知識の"束"である。

conceptごとに1つのMarkdownを置く。先頭の frontmatter に typetitledescriptiontagstimestamp といった最小限の構造化情報を書き、本文にはスキーマ・例・手順・背景を書く。リンクは普通のMarkdownリンクで張る。vendor-neutral(特定のagent・framework・モデル提供者に縛られない)を掲げているのが肝だ。[2]

OKF = concept 1つ = Markdown 1枚(frontmatter+本文)/ ディレクトリの束 / git管理 --- frontmatter --- type: Playbook title / description / tags / timestamp # 本文(スキーマ・例・手順・背景) 普通のMarkdown。リンクは [..](..) concept.md ディレクトリの束bundle git で差分管理vendor-neutral 人間が読むObsidian / エディタ AIエージェントが読むCodex / Claude / Gemini
conceptごとのMarkdown(先頭にfrontmatter)をディレクトリにまとめ、gitで管理。人間も各種AIエージェントも、同じファイルを読める

一点だけ、面白い注記がある。仕様(SPEC)上の必須frontmatterは type ひとつだけ。だがGoogleのリファレンス実装では type / title / description / timestamp の4つが必須扱いになっている。[3][4] 仕様と実装でズレがある──まだv0.1のDraftだという証拠でもあり、後で効いてくる伏線でもある。

03なぜ​「サービス」でなく​「フォーマット」なのか

OKFで一番うなずいたのは、Google Cloudの記事が「必要なのは、もうひとつの知識管理サービスではなく、フォーマットだ」と言っていることだ。[1] ここがこの話の芯だと思う。

いまの組織の知識は、とにかく散らばっている。データカタログ、Notion、Google Docs、Slack、コードコメント、スプレッドシート、そして古参メンバーの頭の中。AIに「週次のアクティブユーザーはどう数える?」と聞いても、その答えに必要な文脈は複数の場所に分かれていて、しかも各ツールは違うAPI・違う権限・違う表現形式を持つ。新しいSaaSをもう1つ足しても、断片がもう1つ増えるだけだ。

散らばった知識を、まず"ファイル"に戻す Notion Google Docs Slack コードコメント 人の頭の中 Markdown の束 concept = 1ファイル frontmatter で最小構造化 vendor-neutral / git AIが読める束ごと渡せる
OKFの提案は、散らばった断片を「ファイル」に戻すこと。conceptごとに1枚のMarkdownにし、frontmatterで最小限の構造を与え、束ごとAIに渡せるようにする

OKFはこの断片を、まずファイルに戻す。データカタログだけでなく、API・指標(Metric)・手順書(Playbook/Runbook)・参照資料(Reference)のような概念にも同じ形を当てられる。[3] 「どのツールに保存するか」の前に、「どの形式なら誰でも・何でも読めるか」を先に決める、という発想の転換だ。

04​私たちの​Wikiは、​すでに​この​形だった

ここからは外の仕様の話ではなく、私たちの一次情報だ。OKFを読んで最初に感じたのは「これ、ずっとやってきたことだ」だった。

私たちは、プロジェクト・開発知見・調査メモ・人物・ゴール・Journey(制作の記録)を、すべてMarkdownで管理するナレッジベースを運用している。frontmatterには category / tags / sources / created / updated / status を持たせ、ページ同士はリンクで結ぶ。人間がエディタで読めるし、CodexやClaude Codeのようなエージェントも、作業の前にこの文脈を参照する。人間が読むWikiでありながら、AIが作業前に読む文脈でもある。記事も製品も、この知識の上で回している。

ダークなエディタ画面。左にMarkdownファイルのツリー(projects/dev/research/journeyなどのフォルダ)、中央に開いたMarkdownの先頭にYAML frontmatter、右側にAIエージェントが同じファイルを参照している小窓。シアンとゴールドのアクセント
frontmatter付きのMarkdownを、人間とAIが同じ場所で読み書きする——OKFが名付けた形を、私たちは日々の運用として先に持っていた

だからOKFは、私たちにとって「自分たちのやり方に、業界の共通語がついた」という感触に近い。AndrejKarpathyが提唱した「LLM Wiki」の発想とも地続きで、その延長線上にある考え方だ。[5] このナレッジベースをどう設計してきたかは、別の連載で詳しく書いている。

LLM Wiki/第二の脳の記事サムネイル 関連記事 | この知識ベースの作り方【AIと"第二の脳"を作る #1】なぜ"普通のメモアプリ"は続かないのか──8つのPKM挫折と「LLM Wiki」という解

05​そのまま​移行は​しない​ ──正本を​壊さず​"export"で​繋ぐ

ただし、ここで雑に「全部OKFに移行しよう」と考えるのは危険だ。私たちのナレッジベースはObsidianと、人間×LLMの共同編集に最適化されている[[dev/foo]] 形式のwikilink、ゴールの記法、Daily、raw、logs、Journeyといった独自の運用ルールがある。一方OKFには、index.mdlog.md の扱い、concept documentに必須の type、そして前述の「SPECより厳しいリファレンス実装のrequired」がある。[4] 正本どうしの最適化先が違うのだ。

だから正しい接続は「正本を壊す」ことではなく、OKF互換の"export(書き出し)"を作ることだと考えている。正本はObsidian向けのまま運用し、AIに渡すときだけOKF形式に変換する層を挟む。

正本は壊さない。export層でOKF互換に"翻訳"して書き出す 正本(Obsidian Wiki) [[dev/foo]] / category 独自運用は維持 壊さない export adapter [[..]] → [..](/..md) category → type updated → timestamp description を補完 OKF bundle agent-ready AIに束ごと渡せる
正本はObsidian向けのまま、export層で wikilink→通常リンク・category→type・updated→timestamp を変換し、足りないdescriptionを補完してOKF bundleを書き出す

実際に今回、私たちのナレッジベース側に「OKF互換ページ」を1枚作り、既存のfrontmatter(category / sources / created / updated / status)を維持したまま、OKF互換の type / description / resource / timestamp / okf_version同居させた。これならObsidian側の運用を壊さず、OKF consumerにも意味が通る。「正本は人間最適、書き出しはAI最適」の二段構えだ。

06これは​個人の​話で​終わらない​ ──企業ナレッジを​"AIが​読める​"形に

この話は、個人のメモ術で終わらない。企業の業務ナレッジこそ、いずれ「人間が読むマニュアル」だけでは足りなくなる。

AIエージェントに、予約システムの仕様を読ませる。問い合わせ対応の手順を読ませる。過去の意思決定や、営業資料の前提を読ませる。そのとき、ナレッジがGoogle DocsやNotionの奥に閉じているより、agent-readyな束として整理されている方が圧倒的に強い。私たちが支援先の業務ナレッジを扱うときも、同じ設計判断が効く。

散在する企業の業務知識(マニュアル・議事録・仕様書・FAQ)が、整理されたMarkdownファイルの束に変換され、AIエージェントがそれを読んで業務に答えている様子のダークなUIモック。権限・出典のラベルも見える
社内に散らばった業務知識を、AIが読める束に整える。AI導入支援の本体は「ChatGPTを配ること」から「知識を整え、更新し、権限と出典を管理すること」へ移る

つまりAI導入支援の本体は、モデル比較から「知識をどう整えるか」へ移っていく。企業に本当に必要なのは、単にChatGPTを配ることではない。社内の業務知識を、AIが読める形に直し、更新される仕組みを作り、権限と出典を管理することだ。OKFは、その共通言語の候補になり得る。私たちが日々ナレッジベースでやっていることを、お客さまの業務の上に組み直す——ここに私たちの仕事がある。

07​締め:​「どこに​書くか」から​「どう​引き継げるか」へ

最後に、煽りすぎないよう釘を刺す。OKFはまだv0.1のDraftだ。[3] Google Cloud以外の広い採用はまだ確認できていないし、仕様と実装でrequiredの扱いも揺れている。標準になるかどうかは、これからの採用次第だ。

もう一つ大事な釘。OKF化は、知識の質を自動では上げない。 古い情報、根拠不明、重複、権限の問題は、形式を変えても残る。むしろ企業ナレッジをagent-readyにするなら、機密情報・顧客情報・社内権限を分ける設計(レーン分け)が前提になる。「形式が整う」と「中身が正しく・安全に運用できる」は別問題だ。

変わったこと 知識管理が「ツール選び」から「形式」へ 人間もAIも同じMarkdownを読める gitで持ち運べる(ベンダーロック回避) 導入支援が「知識整備」に軸足を移す まだ人がやるべきこと v0.1 Draft・標準化はこれから 形式を変えても知識の質は上がらない 古い情報・根拠・重複は別途メンテ 機密・顧客情報・権限のレーン分け
知識管理は「ツールから形式へ」動いた。一方で、質・権限・出典・機密の設計は、形式が整っても人間が握り続ける仕事だ

それでも、方向性はかなり明確だ。AIエージェント時代の知識管理は、「どのツールに書くか」から「どの形式で引き継げるか」へ移る。人間が読むWikiから、AIが引き継ぐKnowledge Bundleへ。電脳技巧集団(AI職人ギルド)は、最新のAIを使いこなすと同時に、その土台になる知識を"引き継げる資産"として設計することを本業にしている。OKFは、その転換点のひとつとして見る価値がある。

「どこに書くか」から「どう引き継げるか」へ。この変化を、一枚に。

観点ツールに閉じた知識管理引き継げる知識(OKF的bundle)
置き場Notion / Docs / 各SaaSの奥Markdownファイル+git
読み手人間だけ(UI前提)人間もAIも同じファイル
構造ツール独自・取り出しにくいfrontmatterで最小構造化・vendor-neutral
AIへの渡し方毎回プロンプトで貼る束ごと読ませる(agent-ready)
移行性ベンダーロックgitで持ち運べる
正本との関係そのツールが正本正本は維持しexportで両立

※ 本記事はGoogle Cloud等の公式発表・公開仕様を、開発実務の観点から整理・論評したもの。OKFの仕様・実装に関する事実は下記出典に基づく引用であり、CAG自身が標準化や採用状況を検証したものではない(v0.1 Draft・2026-06時点)。私たちのナレッジベース運用とOKF互換ページの実例は自社の一次情報。状況は流動的で、仕様は更新されうる。

脚注・出典

  1. Google Cloud Blog「How the Open Knowledge Format can improve data sharing」。OKF v0.1 の提案と「必要なのはサービスでなくフォーマット」という主張。cloud.google.com/blog
  2. OKF GitHub(GoogleCloudPlatform/knowledge-catalog/okf)。spec・samples・reference enrichment agent・visualizerを含む。vendor-neutralをREADMEで明示。github.com/GoogleCloudPlatform/knowledge-catalog
  3. OKF SPEC.md。Markdown+YAML frontmatter+directory tree。SPEC上の必須frontmatterは type のみ(title/description/resource/tags/timestamp はrecommended/optional)。SPEC.md
  4. OKF reference implementation(okf/src/enrichment_agent/bundle/document.py)。実装では type/title/description/timestamp の4つがrequired扱い(SPECとの差)。document.py
  5. Andrej Karpathy「LLM Wiki」gist。MarkdownをLLMの文脈として読む発想。OKFはこの流れの延長線上にある(本記事の整理)。gist.github.com/karpathy

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