GoogleがGemini APIの「Managed Agents(マネージドエージェント)」を無料ティアに開放しました。あわせて、cron(クーロン=決まった時刻に処理を自動実行する仕組み)によるスケジュール実行と、トークン上限による予算制御(max_total_tokens)が加わっています[3][4]。
つまり——自前のサーバーを1台も持たずに、「毎朝9時に働き始めて、決めた予算を使い切ったら安全に止まる」AIエージェントを、API呼び出し1つで持てるようになりました。
この記事で分かること——①Managed Agentsとは何か ②「常駐」を実現する定時実行の仕組み ③暴走を防ぐ予算制御と料金の目安 ④使う前の注意。数値はすべてGoogle公式ドキュメント・公式ブログベースです。
01何が起きた ──2ヶ月で「常駐の部品」が揃った
Managed Agentsは2026年5月19日に公開プレビューとして登場し、この2ヶ月で立て続けに拡張されてきました[1][2]。
| 時期 | 更新 | 何ができるようになったか |
|---|---|---|
| 5月19日 | 公開プレビュー開始 | API 1呼び出しで、サンドボックス内のエージェントが動く |
| 7月7日 | バックグラウンド実行・リモートMCP接続 | 長時間タスクを裏で回せる/社内データベースや内部APIに接続できる |
| 7月中旬 | 無料ティア開放・cronトリガー・max_total_tokens | 無料で試せる/定時に自動起動する/予算で安全に止まる |
注目したいのは最後の3点セットです。「定時に起きる」「勝手に使いすぎない」「無料で試せる」——常駐型エージェントを業務に置こうとしたとき最初に困る3つが、API標準機能として一度に揃いました。
02Managed Agentsとは ──API 1回でLinuxの"作業部屋"が立つ
Managed Agentsは、GoogleがホストするセキュアなLinuxサンドボックス(外部から隔離された作業環境)の中でAIエージェントを動かす仕組みです。1回のAPI呼び出しで作業部屋が用意され、その中でAIが推論し、コードを書いて実行し、ファイルを管理し、Webを閲覧します[3]。
中身は「Antigravity agent」と呼ばれる汎用エージェントで、動力はGemini 3.5 Flashです。Googleのコーディング環境「Antigravity IDE」と同じハーネス(エージェントの実行基盤)を使っています。
| 項目 | 仕様(公式ドキュメントより) |
|---|---|
| 実行環境 | Ubuntuベース・Python 3.12・Node.js 22 |
| できること | 推論・コード実行・ファイル管理・Web閲覧 |
| ネットワーク | 既定は外部通信可。許可リスト(allowlist)で制限可能 |
| ファイル | 環境が保持される限り永続化 |
| 環境の寿命 | 非アクティブ7日で完全削除 |
| モデル | Gemini 3.5 Flash(antigravity-preview-05-2026) |
ポイントは「自社でサーバーやDocker環境を整備しなくていい」ことです。これまで常駐エージェントを持とうとすると、実行環境の構築・保守がまず壁でした。その壁ごとGoogleが預かる形です。
03定時実行(cronトリガー) ──外部サーバーなしの「常駐」ができた
今回の目玉がネイティブcronトリガーです。「毎朝9時」「平日だけ」のようなスケジュールをAPIに登録しておくと、外部のサーバーやスケジューラを一切用意せずに、エージェントが決まった時刻に自動で動き始めます[3]。
# 平日の朝9時に、決めておいた仕事を自動で始める
schedule="0 9 * * 1-5", time_zone="Asia/Tokyo"
運用に必要な操作も一通り揃っています。
| 操作 | 何ができるか |
|---|---|
| 一時停止/再開 | スケジュールを止める・戻す(status を paused / active に) |
| 即時実行 | スケジュールを待たずに手動で走らせる |
| 実行履歴 | いつ動いて何をしたかを一覧で確認 |
これまで「毎朝レポートをまとめるAI」「毎晩データを点検するAI」を作るには、cronを回すサーバーを自前で立てるか、外部の自動化サービスを噛ませる必要がありました。それがGemini APIの中で完結します。
04予算制御(max_total_tokens) ──「使い切ったら止まる」が標準機能に
もう1つの目玉が予算制御です。エージェントは1回の実行で通常10万〜300万トークンを消費します(公式目安)[3]。放っておくと、ループにはまったエージェントが延々とトークンを燃やし続ける——これが常駐化の最大の不安でした。
max_total_tokensは、1回の実行に使えるトークン総量(入力+出力+思考)の上限をあらかじめ決める仕組みです。上限に達すると実行は incomplete(未完了)の状態で安全に停止し、作業内容はサンドボックスに残ります。続きは、新しい予算を渡して中断地点から再開できます。
料金の公式目安も公開されています。プレビュー期間中はサンドボックスの計算資源(CPU・メモリ)は課金対象外で、課金はGeminiモデルのトークンとツール使用分です。
| タスクの種類 | 目安コスト(公式) |
|---|---|
| 調査・情報整理 | $0.30〜$1.00 |
| 文書生成 | $0.30〜$1.30 |
| データ処理 | $0.70〜$3.25 |
| 複雑なワークフロー | 300万〜500万トークン・〜$5程度 |
以前の記事で「AIエージェントの原価は月額でなくトークンで決まる。読ませる前に予算ゲートを設計する」と書きました。その予算ゲートが、APIの標準機能として提供され始めた——今回の更新はそう位置づけられます。
関連記事 | 予算ゲートの設計論AIを全社に入れたら、今度は「使いすぎ」に悩み始めた ──AIエージェント時代の本当のコストは、月額ではなくトークンで決まる
→
05使う前の注意 ──プレビューの"境界"を知っておく
便利さの一方で、公式ドキュメントには運用上の注意も書かれています。導入を検討するなら次の5点は押さえておきたいところです。
① プレビュー段階である。仕様も価格も変わりえます。試すのは今からで良いとして、本番の基幹業務に据えるのは早い段階です。
② 上限は「最善努力」である。max_total_tokensのチェックは作業ステップの区切りで行われるため、多少の超過はありうると公式が明記しています。1円単位の厳密な上限ではなく「暴走を止める安全弁」と捉えるのが正確です。
③ 環境は7日で消える。非アクティブが7日続くとサンドボックスの中身は完全削除されます。残したい成果物は外部ストレージに出す設計が前提です。
④ ネットワークは既定で開いている。外部通信は許可リストで絞れます。業務データを扱うなら「絞ってから使う」が順序です。
⑤ 止める手段と、止める設計は別物。定時実行・予算停止・一時停止と「止める手段」は揃いましたが、どの操作に人の承認を挟むか(HITL=人間による最終判断)は、利用者側の設計課題のまま残ります。
私たちも受託開発で常駐型のエージェントを組みますが、最初に決めるのはモデルでも機能でもなく「どこまで任せ、どこで止めるか」です。定時実行と予算制御が標準になったことで、この設計を小さく安く試せるようになりました。
06まとめ ──「常駐・予算・無料」で試す口実が揃った
今回の更新は、派手な新モデルの話ではありません。しかし「決まった時間に働く」「決めた予算で止まる」「無料で試せる」という地味な3点は、AIエージェントをデモから業務へ運ぶときに最初に必要になる部品です。自前で組む場合との違いを並べると、預けられる範囲がはっきりします。
| 自前で常駐エージェントを組む | Managed Agentsに載せる | |
|---|---|---|
| 実行環境 | サーバー/Docker環境を構築・保守 | API 1呼び出しでサンドボックスが立つ |
| 定時実行 | cronサーバーや自動化サービスを別途用意 | APIにスケジュール登録するだけ |
| コスト管理 | 使用量の監視・停止処理を自作 | max_total_tokensで安全停止・再開 |
| 残る設計課題 | 全部自分 | 承認ポイント(HITL)と成果物の持ち出しは自分 |
使う前チェックリスト
- 定時実行させたい業務はあるか(毎朝の集計・毎晩の点検・週次レポート)
- 1回あたりのトークン予算を決めたか(まず小さく。incompleteから再開できる)
- 成果物をサンドボックスの外に出す経路はあるか(環境は非アクティブ7日で消える)
- ネットワーク許可リストを絞ったか(既定は開いている)
- 人の承認を挟むポイントを決めたか(止める手段と止める設計は別)
走らせ方より先に、止まり方が整った。エージェントを業務に置く順序としては、それが正しいのだと思います。
電脳技巧集団(AI職人ギルド)
AI駆動開発の実践から得た知見を、実体験ベースで発信しています。開発のご相談はこちらから。
脚注
- Google公式ブログ「Introducing Managed Agents in the Gemini API」(2026-05-19・公開プレビュー開始)。
- Google公式ブログ「Expanding Managed Agents in Gemini API: background tasks, remote MCP and more」(2026-07-07)。
- Gemini API公式ドキュメント「Agents Overview」「Antigravity Agent」。サンドボックス仕様(Ubuntu・Python 3.12・Node.js 22・非アクティブ7日で削除)、cronトリガー、max_total_tokensの挙動(キャッシュ除外・incomplete停止・再開)、トークン消費目安(10万〜300万/複雑なワークフローで300万〜500万・〜$5程度)、タスク別コスト目安はいずれも本ドキュメントの記載による(2026-07-18閲覧時点)。
- 無料ティア開放・cronトリガー・max_total_tokensの3点は、Google DeepMind Philipp Schmid氏による告知(X・2026-07-17)と公式ドキュメントへの反映を確認。公式ブログ記事としての単独発表は執筆時点で未確認。
- 本記事の数値はすべてGoogle公式ドキュメント・公式ブログおよび上記告知ベースであり、CAG自身の検証値ではありません。プレビュー期間中のため仕様・価格は変わる可能性があります。









