気になるAIの話を、分かりやすく | 最新動向を、現場目線で
2026年7月14日、DeNAが公式エンジニアブログで、Claude Code(AIコーディングエージェント)をチーム全員で使う事例を公開した[1]。先に結論を言うと、この事例で速くなったのは「AIがコードを書く」部分ではない。議事録→仕様書→デザイン→実装という"チームの受け渡し"が速くなり、仕様確定までのサイクルが従来の2週間〜1ヶ月から1〜2日になった——DeNAはそう説明している。
Claude Code活用事例は世界中にあるが、この記事で取り上げる理由は3つ。①国内大手の実名事例であること、②エンジニアだけでなくPdM(企画職)とデザイナーも使っていること、③速くなった場所が「コーディング」ではなく「チームの合意形成」だったこと。AI導入を検討している会社にとって、参考になる部分がとても多い。
この記事では、①何が公開されたのか ②何がどう速くなったのか ③速さの正体 ④非エンジニアが使うための工夫 ⑤真似する前の注意点——の順に、専門用語なしで見ていく。私たち電脳技巧集団(AI職人ギルド)も開発を全面的にAIエージェントで回している側なので、現場感で軽く一筆添える。

01何が公開されたのか ──3つの職種が、同じAIを使う
公開されたのはDeNAエンジニアブログのインタビュー記事で、登場するのはひとつの開発チームだ。特徴は、Claude Codeを使っているのがエンジニアだけではないこと。職種ごとに任せている仕事が違う[1]。
| 職種 | Claude Codeに任せていること |
|---|---|
| PdM(企画) | 会議の議事録から仕様変更を拾い出し、仕様書(PRD)を自動更新。Slackでの議論もドキュメントに反映 |
| デザイナー | UIモックアップ(動く試作画面)の作成、デザインデータへの変換、部品の生成 |
| エンジニア | 仕様書・技術文書の生成、コード生成、GitHub上の詳細仕様のブラッシュアップ |
※ DeNA公式ブログの記載に基づく整理。CAG自身の検証ではない。
ポイントは、3職種が同じ場所(GitHub)にある同じドキュメントを介して働いていることだ。仕様書とコードを同じ場所で管理し、AIがその間の変換を担う。「PdMのメモ」「デザイナーのファイル」「エンジニアのコード」がバラバラの場所にある会社との、いちばん大きな違いがここにある。
02何がどう速くなったのか ──2週間〜1ヶ月が、1〜2日に
DeNAが挙げる数字はシンプルだ。仕様が確定して動くモックを確認できるまでのサイクルが、従来の2週間〜1ヶ月から1〜2日に短縮された[1]。
なぜそんなに縮むのか。従来のやり方を思い出すと分かる。会議で決めたことを誰かが文章の仕様書にまとめ、関係者がそれを読んで解釈し、認識合わせの会議をもう一度やり、デザインを起こし、また確認する——各工程のあいだに「書く待ち」「読む待ち」「すり合わせ待ち」が挟まる。しかもテキストの仕様書は人によって読み方がずれるので、手戻りが起きる。
DeNAのチームは、この確認の仕方自体を変えた。文章で仕様をすり合わせる代わりに、AIがすぐ作った「動くモック」を全員で見て判断する。実物が目の前にあれば、解釈のずれは起きようがない。
03速さの正体 ──AIは「翻訳係」として効いている
この事例でClaude Codeが担っているのは、実は同じ1つの役割だ。「ある職種の言葉を、次の職種が使える形に翻訳する」こと。議事録(話し言葉)を仕様書に、仕様書をモックに、モックをデザインデータやコードに——形を変えているだけ、とも言える。
従来この翻訳は、各職種の人が手作業でやっていた。だから翻訳のたびに待ち時間が生まれ、翻訳者の解釈がずれれば手戻りになった。DeNAのチームはこの翻訳をAIに任せ、人間は翻訳結果(実物)を見て判断する側に回った。
これは、AIの扱う単位が「質問への回答」から「仕事の成果物」へ移っているという大きな流れの、チーム版と言える。
関連記事 | 同じ流れの「個人・会社」版ChatGPT Workとは何か ──AIが資料まで作って仕事を「完了」させる新機能を解説
→

04非エンジニアが使うための工夫 ──ここが一番真似しどころ
「PdMやデザイナーもAIコーディングツールを使う」と聞くと、全員が黒い画面(ターミナル)と格闘している姿を想像するかもしれない。実際は逆で、DeNAのチームは非エンジニアが安全に使えるように、エンジニアが専用のアプリを用意した[1]。使う人に合わせて道具の側を整える——この一手間が、職種横断で定着した理由のひとつだ。
もうひとつの工夫が、週1回の職種横断の共有会。「AIにこれを任せたらうまくいった」という発見を職種を越えて交換する場を、仕組みとして持っている。個人の裏技で終わらせず、チームの標準に変える回路だ。
- 道具を整える:非エンジニアには、安全な範囲だけ操作できる専用アプリを提供(ガードレール)。
- 場所を揃える:仕様書とコードをGitHubで一元管理し、AIがその間を行き来する。
- 知見を回す:週1の共有会で、職種を越えて使い方を標準化する。
05真似する前の注意 ──DeNA自身が挙げる課題
いい話だけではない。記事の中でDeNAのチーム自身が、率直に課題を挙げている[1]。ここが一番参考になる。
- 暗黙知を書き物にしないと、AIの出力の質が落ちる。「うちのやり方」が頭の中にしかない状態では、AIはそれを守れない。ルールとして明記する手間が先に要る。
- 運用ルールをAI前提で設計し直す必要がある。既存の仕事のやり方にAIを後付けしただけでは、ドキュメントの精度が下がる場面があった——と振り返っている。
- 動くモック=確定仕様ではない。実物はすり合わせを速くするが、何を「決定」とするか、誰が承認するかの線引きは人間側の設計が要る。
私たちCAGも開発を全面的にAIエージェントで回しているので、1つ目の課題は毎日実感している。効いているのは、チームのルール・判断基準・過去の失敗を「AIが毎回読む書き物」にしておくことだ。人間の新人に口頭で教えることを、AIには文書で渡す。地味だが、ここをやるかどうかで出力の安定感がまるで違う。
06まとめ ──速くしたいのは、コーディングか、受け渡しか
DeNAの事例が示しているのは、「AIで開発が速くなる」の中身だ。コードを書く時間より、職種のあいだの待ちと解釈ずれのほうが、ずっと大きなコストだった。そこにAIを当てたから、2週間〜1ヶ月が1〜2日になった。
自社で考えるときの問いはこうなる。うちの仕事で一番時間を食っているのは、作る時間か、それとも受け渡しの待ち時間か。後者なら、この事例の型——場所を揃える・翻訳をAIに任せる・実物で確認する——は、開発以外の仕事にも応用が利く。
| 観点 | 従来の受け渡し | DeNAのチームの受け渡し |
|---|---|---|
| すり合わせの材料 | 文章の仕様書(解釈がずれる) | 動くモック(実物を見て判断) |
| 職種間の翻訳 | 各職種の人が手作業で変換 | AIが変換し、人は判断に回る |
| 情報の置き場 | 職種ごとにバラバラ | GitHubに仕様とコードを一元管理 |
| 非エンジニアの環境 | 同じ道具を我慢して使う | 安全な専用アプリを用意(ガードレール) |
| 知見の広げ方 | 個人の裏技で終わる | 週1の職種横断共有会で標準化 |
| 仕様確定まで | 2週間〜1ヶ月 | 1〜2日 |
※ DeNA公式ブログの記載に基づく整理。数字はDeNA自己申告であり、CAG自身の検証ではない。
脚注・出典
- DeNA Engineering「Claude Codeによるチーム開発」(2026-07-14公開・インタビュー記事)。職種横断(PdM/デザイナー/エンジニア)のClaude Code活用、仕様確定サイクル「2週間〜1ヶ月→1〜2日」、非エンジニア向け専用アプリ、週1共有会、GitHubでの仕様・コード一元管理、暗黙知の言語化とAI前提の運用設計という課題、いずれも同記事の記載に基づく。数字はDeNAの自己申告で、CAG自身の検証ではない。engineering.dena.com/blog/2026/07/claude-code-team-collaboration/
- DeNAはこれ以前にも社内のClaude Code勉強会レポートを公開している(2026-06)。engineering.dena.com/blog/2026/06/claude-code-study-report/
- 本記事の「翻訳係」という整理は本記事の分析フレームであり、DeNAの公式な表現ではない。1社の事例であり、チーム構成・案件の性質によって再現度は変わる。









