昨日、GoogleのGemini API「Managed Agents」を解説しましたが、実はAnthropicにも同じ名前の仕組みがあります。Claude APIの「Claude Managed Agents」——自前でサーバーやエージェントループを組まずに、Anthropicがホストするサンドボックス(外部から隔離された実行環境)の中でClaudeを自律エージェントとして走らせる基盤です[1][3]。
2026年4月8日のパブリックベータ開始から毎月機能が増築され、いまはcron定時実行・資格情報の金庫(vault)・エージェント用メモリ・マルチエージェント連携・自社インフラでの実行まで揃った"フルセット"になっています[2]。
この記事で分かること——①Claude Managed Agentsとは何か ②サンドボックスの仕様 ③定時実行の仕組み ④Gemini版との違い ⑤使う前の注意。数値はすべてAnthropic公式ドキュメント・公式ブログベースです。
01Claude Managed Agentsとは ──4つの部品と、毎月の増築
Claude Managed Agentsは、Claude APIの一部として提供されるマネージド(=運用をAnthropicが預かる)エージェント基盤です。通常のMessages APIが「モデルに直接プロンプトを送り、エージェントの仕組みは自分で組む」ためのものだとすると、Managed Agentsは「組み上がったエージェントの実行基盤ごと借りる」ためのものです。プロンプトキャッシュや会話履歴の圧縮(コンパクション)といった最適化も、ハーネス(実行基盤)側に組み込まれています[3]。
構造は4つの概念でできています。
| 概念 | 中身 |
|---|---|
| Agent | モデル・システムプロンプト・ツール・MCPサーバー・スキルの定義(バージョン管理される) |
| Environment | 実行場所の設定。Anthropicのクラウドサンドボックス、または自社インフラ(self-hosted) |
| Session | 環境の中で動くエージェントの実体。会話履歴とファイルを保持し、長時間走る |
| Events | アプリとエージェントの間を流れるメッセージ(指示・ツール結果・状態変化) |
注目したいのは、この基盤が一度に発表されたのではなく、毎月積み上がってきたことです[2]。
| 時期 | 追加された部品 |
|---|---|
| 4月8日 | パブリックベータ開始(サンドボックス・組み込みツール・ストリーミング)+専用CLI |
| 4月23日 | エージェント用メモリ(公開ベータ) |
| 5月6日 | マルチエージェント連携・Outcomes(目標定義)・webhook通知 |
| 5月下旬 | 自社インフラで動かすself-hostedサンドボックス |
| 6月9日 | cron定時実行(scheduled deployments)・vaultの環境変数クレデンシャル |
| 6月30日 | セッション単位の設定上書き・イベント配信の強化 |
02サンドボックスの仕様 ──セッションごとに隔離された"作業部屋"
エージェントの作業部屋になるのがクラウドサンドボックスです。セッションを作るたびに専用のLinuxコンテナが1つ立ち、他のセッションとはファイルも状態も共有されません[3]。
| 項目 | 仕様(公式ドキュメントより) |
|---|---|
| 実行環境 | セッション毎に隔離されたLinuxコンテナ(主要な言語ランタイムをプリインストール) |
| パッケージ | apt / pip / npm / cargo / gem / go を環境設定で事前インストール(バージョン固定可) |
| 組み込みツール | Bash・ファイル操作(読み書き/検索)・Web検索/取得・MCPサーバー接続 |
| ネットワーク | 既定はunrestricted(外部通信可・安全ブロックリストのみ)。limitedで許可リスト制限 |
| 実行の継続性 | 切断後も状態保持。数時間規模の長時間タスクに対応 |
| 巨大な出力 | ツール出力が10万トークンを超えるとファイルに退避し、モデルには要約+パスを渡す |
ネットワークについては公式自身が「本番はlimited+許可リスト(allowed_hosts)で、最小権限にせよ」と明記しています[3]。既定が「開いている」のはGemini版と同じで、業務データを扱うなら絞ってから使う——はどちらの基盤でも変わらない鉄則です。
03定時実行(scheduled deployments) ──"失敗したら勝手に止まる"cron
2026年6月に加わったのが、cron(クーロン=決まった時刻に処理を自動実行する仕組み)によるスケジュール実行です。「金曜20時に週次コンプライアンススキャン」のような定義をAPIに登録すると、外部のスケジューラなしでセッションが自動起動します[3]。
# 毎週金曜20時に、決めておいた仕事を自動で始める
schedule:
type: cron
expression: "0 20 * * 5"
timezone: "Asia/Tokyo" # IANAタイムゾーンで指定
設計がよく考えられているのは失敗まわりです。
| 仕組み | 何が起きるか |
|---|---|
| 実行記録 | 発火のたびに「deployment run」が残る。成功なら起動したセッションのID、失敗なら理由(環境がアーカイブ済み・レート制限 等)付き |
| 自動停止 | 回復不能な失敗が起きるとスケジュールは自動で一時停止——壊れたまま毎晩空振りし続けない |
| 運用操作 | 一時停止/再開/手動実行(スケジュールを待たずにテスト起動)/webhook通知 |
| 夏時間 | 「存在しない時刻」は実行されず「2回来る時刻」は2回実行される、と公式が明記(深夜1〜3時を避けるかUTCで書く) |
私たちも以前、「一括投入スクリプトで作ったデータはcron化しないと永久に古びる。しかも存在しないジョブは失敗しない(=監視が鳴らない)」という失敗を経験しました。「実行されなかったこと」が記録に残り、壊れたら止まって通知が飛ぶ——この地味な作りは、常駐エージェントを実務に置くときに効きます。
04Gemini版との違い ──「入門セット」と「フルセット」
同じ「Managed Agents」という名前ですが、昨日解説したGemini版と並べると性格はかなり違います。
関連記事 | Google版の解説(前編にあたる回)Gemini「Managed Agents」が無料で使えるように ──定時実行・サンドボックス・トークン上限を備えた"常駐型AIエージェント"を解説
→
| Gemini Managed Agents | Claude Managed Agents | |
|---|---|---|
| 提供開始 | 2026年5月19日(公開プレビュー) | 2026年4月8日(パブリックベータ) |
| 無料で試せるか | 無料ティアあり | 無料ティアなし(トークン課金+$0.08/アクティブセッション時間) |
| モデル | Gemini 3.5 Flash 固定 | Claudeの各モデルから選択(セッション単位で差し替えも可) |
| 定時実行 | cronトリガー | scheduled deployments(cron・失敗時自動停止・実行記録) |
| 予算の止め方 | max_total_tokens(上限で安全停止→再開) | セッション単位のトークン上限は公式ドキュメント上見当たらず[5]。組織レベルの支出上限で管理 |
| 資格情報 | ──(執筆時点で明示なし) | vaultで集中管理(OAuthトークンの自動更新・環境変数への注入) |
| メモリ | ──(同上) | メモリストア+整理機能(研究プレビュー) |
| マルチエージェント | ──(同上) | 連携・並列化(公開ベータ) |
| 実行場所 | Googleホストのみ | クラウド+self-hosted(自社インフラ)も可 |
ざっくり言えば、Gemini版は「無料で常駐エージェントを試せる入門セット」、Claude版は「企業の業務に組み込む前提のフルセット」です。vault(資格情報の金庫)・メモリ・self-hostedといった部品は、どれも「社内システムに繋いで、長く運用する」場面で必要になるものです。
一方で対照的なのが予算の止め方です。Gemini版は「この実行はトークン◯◯まで」という上限が標準機能にあり、上限に達すると安全に止まります。Claude版は料金が「トークン+セッション時間」の2階建てで、セッション単体に予算の栓をする仕組みは記事執筆時点のドキュメントには見当たりません[5]。組織全体の支出上限はありますが、粒度が違います。
05使う前の注意 ──ベータの"境界"を知っておく
公式ドキュメントには、導入前に知っておくべき条件が明記されています[3]。
① ベータ段階である。全エンドポイントにベータヘッダーが必要で、挙動は「リリース間で改善のため変わりうる」と明記されています。APIアカウントには既定で有効です。
② データ保持に制約がある。セッションの状態を預かるステートフル設計のため、ゼロデータ保持(ZDR)とHIPAA BAAの対象外です。医療や厳格なコンプライアンス要件のある業務は現時点で載せられません(セッションとファイルはAPIからいつでも削除できます)。
③ 料金は2階建てである。トークン課金に加えて$0.08/アクティブセッション時間[1]。長時間の常駐はセッション時間側も積み上がります。
④ ネットワークは既定で開いている。本番はlimited+許可リストが公式推奨です。絞ってから使う、が順序です。
⑤ 予算の栓は自分で設計する。セッション単位のトークン上限が(現時点では)見当たらない以上、「使いすぎたら止まる」はwebhookやトークン使用量イベントを使って利用者側で組む領域として残ります。
受託でエージェント基盤を組む立場から一筆添えると、この手の基盤選びで最初に見るべきは機能一覧ではなく「止まり方」です。失敗したら止まるcron、権限を絞れるネットワーク、消せるデータ——止まり方が設計されている基盤は、任せられる範囲を広げやすい。逆に予算の栓のように「まだ無い止まり方」は、自分で足すまで任せる範囲に入れない、が私たちの線引きです。
06まとめ ──同じ名前の裏で、2つの答えが競っている
「Managed Agents」という同じ名前で、GoogleとAnthropicが「常駐型AIエージェントの実行基盤はAPI側が預かる」という同じ答えに向かっています。違うのはその入り口で、Gemini版は無料と予算制御で「試すハードル」を下げ、Claude版はvault・メモリ・self-hostedで「業務に組み込むハードル」を下げにきています。
持ち帰りチェックリスト
- 試すのが目的か、業務に組み込むのが目的かを先に決めたか(入門セットとフルセットで選ぶ基盤が変わる)
- 定時実行させたい業務はあるか(週次スキャン・毎朝の集計・毎晩の点検)
- ネットワーク許可リストを絞ったか(既定は開いている)
- 予算の止め方を決めたか(Claude版はセッション単位の栓を自分で設計する)
- データ保持の要件を確認したか(ZDR/HIPAA対象外)
電脳技巧集団(AI職人ギルド)
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脚注
- Anthropic公式ブログ「Claude Managed Agents: get to production 10x faster」(2026-04-08)。料金(標準トークン課金+$0.08/アクティブセッション時間)・対応モデル・導入企業の記載を含む。
- Claude Platform公式リリースノート(2026-04-08〜07-10)。メモリ(4/23)・マルチエージェント連携とOutcomes・webhook(5/6)・self-hostedサンドボックス(5月下旬)・scheduled deploymentsとvault環境変数クレデンシャル(6/9)・セッション単位の設定上書き(6/30)等の追加時期はいずれも本リリースノートによる。
- Claude Platform公式ドキュメント「Claude Managed Agents overview」「Scheduled deployments」「Cloud environment setup」「Sessions」「Reference」。4概念・サンドボックス仕様(パッケージ・ネットワーク制御・10万トークン超のファイル退避)・cron仕様(分単位・IANAタイムゾーン・夏時間の挙動・失敗時自動停止・組織あたり1,000本上限)・データ保持(ZDR/HIPAA対象外)はいずれも本ドキュメントの記載による(2026-07-19閲覧時点)。
- Gemini版の仕様は前記事「Gemini『Managed Agents』が無料で使えるように」の脚注(Google公式ブログ・公式ドキュメント)に基づく。
- 「セッション単位のトークン上限が見当たらない」は記事執筆時点(2026-07-19)の公式ドキュメント調査に基づく記述であり、機能の不存在を断定するものではありません。本記事の数値はすべてAnthropic公式ドキュメント・公式ブログベースであり、CAG自身の検証値ではありません。ベータ期間中のため仕様・価格は変わる可能性があります。









