2026年8月30日、Anthropicが一部のClaude利用者に通知を出した。利用者のパソコンに入り込んだ情報窃取マルウェアが、ログイン済みのセッションを盗み、そのアカウントの利用枠を使っていたという内容だ[1]。
ここで押さえておきたいのは、破られたのはClaude側ではないこと、そしてパスワードも2段階認証も、一度も突破されていないことだ。盗まれたのは、すでにログインを済ませた状態そのものだった。だから対処も「パスワードを変える」では足りない。
この記事では4つを順に見る。①何が起きたのか ②なぜパスワードと2段階認証が関係ないのか ③Anthropicがやったこと、やっていないこと ④個人と会社が今日打てる手。④には、報道がほとんど触れていない管理者向けの設定がある。
01 何が起きたのか──通知の中身
Anthropicが対象者に送った通知は、状況をこう説明している。報道が引用した文面から引く。
一般的な情報窃取マルウェアを使って、人々のコンピューターからClaudeのログインセッションを盗み、そのログインセッションを使ってClaudeアカウントにアクセスし、利用枠を消費している攻撃者の存在を、最近になって把握しました。
このマルウェアがClaudeに関係している、Claude経由でインストールされた、あるいはあなたがClaudeで行った何かに関係している、と考える理由はありません。
Anthropicが対象者に送った通知より(BleepingComputerが引用した文面・2026年8月30日)[1]/筆者訳
確認されたマルウェアの名前も挙げられている。Windowsでは Vidar、LummaC2、StealC、RedLine、Acreed。Macでは Atomic Stealer(AMOS)が少数[1]。どれもClaude専用のものではなく、以前から出回っている汎用の情報窃取マルウェアで、非公式なダウンロードや悪意あるアプリ経由で入ってくる類のものだ。
気づき方について、通知は具体的な症状を書いている。「使っていないのに、利用上限が回復したそばから減っていくように見えたなら、おそらくこれが原因です」[1]。請求やログイン通知ではなく、利用枠の減り方が最初のサインになる——ここが、いつもの不正アクセスと少し違う。
02 なぜパスワードも2段階認証も効かないのか──盗まれたのは鍵ではなく「入館済みの証」
この攻撃の性質は、建物の入館にたとえると分かりやすい。パスワードと2段階認証は「受付で本人確認をして、入館証を受け取る」手続きにあたる。一度その手続きを終えると、あとは入館証を見せるだけで中を歩ける。
情報窃取マルウェアが盗むのは、この入館証のほうだ。技術的には、ブラウザに保存されたセッションのcookieを、パソコンの中から抜き出す。受付を通っていないので、パスワードを何回変えても、2段階認証をどれだけ厳しくしても、その入館証は無効にならない。攻撃者は本人確認をやり直す必要がないからだ。
もうひとつ、期限の話がある。Anthropicの公式ヘルプによれば、claude.ai のセッションは28日間。ただしページを再読み込みするなどの操作をすると、1時間ごとに、その時点から28日後へと期限が自動で延長される[2]。管理者向けの別ページでも、既定の挙動は「利用者がアクティブである限りセッションは有効なまま」と説明されている[3]。
公式が書いているのはここまでだが、2つを重ねると意味は明快だ。盗まれたセッションを攻撃者が使い続けている限り、期限は永久に来ない。放っておいて切れるのを待つ、という選択肢は無い。
03 Anthropicがやったこと、やっていないこと
報道によれば、Anthropicが取った対応は3つだ。対象アカウントを強制的にサインアウトさせ、保存されていた決済手段を削除し、不正と判断した請求を返金した[1]。決済手段の削除は「これ以上請求が発生しないように」という措置で、更新や購入をするには自分で登録し直す必要がある。
そして、通知はやっていないことも明記している。
サインアウトによって盗まれたセッションは止まりますが、マルウェアが消えるわけではありません。まだあなたのコンピューターに残っているなら、次のログインセッションが同じように盗まれる可能性があります。
Anthropicが対象者に送った通知より(BleepingComputerが引用した文面・2026年8月30日)[1]/筆者訳
つまりサービス側でできるのは「今ある入館証を全部無効にする」ところまでで、入館証を刷り直す機械が部屋に置かれたままなら、また同じことが起きる。端末側からマルウェアを取り除く作業は、利用者にしかできない。
04 「全部からログアウト」は、1か所では終わらない
では自分でセッションを消すとき、どこを見ればいいのか。公式ヘルプを読むと、作業は3か所に分かれている。
ひとつ目が個別のセッションの確認と終了だ。設定の「アカウント」に「Active sessions(有効なセッション)」があり、デバイスとブラウザ、IPアドレスから推定したおおよその場所、最後に使われた時刻が並ぶ。見覚えのないものは三点メニューから終了できる[4]。この機能自体が新しく、公式は「以前は、アカウントでどのセッションが有効かを見る方法がありませんでした」と書いている[4]。
ふたつ目が全端末からの一括ログアウト。同じく設定の「アカウント」から実行でき、ウェブブラウザ・モバイル端末・デスクトップアプリの全部から即座にサインアウトされる。ただし注意書きがある。この操作は iOS と Android のモバイルアプリからは実行できない——つまり、外出先でスマホしか手元にない状況では止められない[2]。
3つ目がClaude Code の認可トークンだ。公式ヘルプは、Claudeのアカウントで Claude Code にログインしている場合、設定の「Claude Code」から、トークンをゴミ箱アイコンで個別に削除すると案内している[2]。一括ログアウトとは別の操作で、ここを忘れると開発ツール側の認可だけが残る。
この最後の一点については、注意して読むべき材料がある。Claude Code の公開リポジトリに、「全セッションからのログアウトと認可トークンの取り消しをしても、OAuthトークンが無効化されない」という不具合報告が上がっており、2026年5月19日に対応済みとして閉じられている。ところが閉じられたあとの2026年8月下旬にも、同じ症状の報告が複数付いている[5]。これは利用者の報告であって、Anthropicの見解ではないし、当方でも再現は試していない。それでも、示唆は実務的だ——「消したつもり」で終わらせず、消えたことを画面で確かめる。
05 会社として打てる手──セッションの寿命を縮める
ここが、今回の一連の報道でほとんど触れられていない部分だ。組織の管理者は、所属する全員のセッションに最大の長さを設定できる[3]。有効にすると、利用者は指定した期間が過ぎたあと、たとえ使い続けていてももう一度サインインし直す必要がある。
Anthropicの公式ヘルプは、この機能の目的をはっきり書いている。「侵害されたセッションが有効であり続ける時間を制限することで、組織を保護します」[3]。まさに今回起きたことを想定して用意された設定で、公開されたのは2026年5月だ。
| 立場 | できること | 選べる期間 |
|---|---|---|
| Enterpriseの管理者 | 組織全体のセッション長を短縮(組織設定 → Organization and access → Session security) | 1日 / 7日 / 14日 / 28日[3] |
| Consoleの管理者 | 同上(設定 → Organization and access) | 1日 / 3日 / 7日[3] |
| 個人・Pro/Max | セッション長の設定は無し。一覧からの個別終了と、一括ログアウトで対応する | 既定は28日(操作するたびに延長)[2] |
設定を有効にしたときの挙動も、細かく書かれている。選んだ期間より古い既存のセッションは即座に失効するので、「今この瞬間に紛れ込んでいるかもしれない古いセッション」を一掃する手段としても使える[3]。逆に無効化した場合、既存のセッションは予定どおりの期限まで生き続け、新しいセッションは既定の挙動に戻る。
もう一点、複数の組織に所属している利用者については最も短い設定が適用される。公式の例では、7日の組織と28日の組織の両方に属していれば7日になる。セッションは組織をまたいで1つだから、というのが理由だ[3]。取引先の組織に招かれている社員がいる場合は、この挙動を知っておくと説明が楽になる。
関連記事 | 管理者が触れる設定は他にもある社員のAI利用を、会社はどこまで見られるか ──8月26日に重なった3つの統制機能
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06 今日やること──立場別に3つずつ
個人として
- 利用枠の減り方を思い出す。操作していない時間帯に上限が消費されていたなら、それが最初のサインになる[1]。
- 設定の「アカウント」で有効なセッションを開き、場所と端末を1件ずつ見る。見覚えのないものは終了する[4]。
- Claude Code を使っているなら、認可トークンを別に確認する。一括ログアウトの対象外で、消したあとに一覧から消えているかまで見る[2][5]。
端末の側で
- サインアウトはマルウェアを消さないので、端末側の駆除を先に済ませる。順番が逆だと、入れ直したセッションがまた盗まれる[1]。
- 削除された決済手段を、駆除の前に登録し直さない。再登録は端末が綺麗になってからでよい。
会社として
- Enterprise / Console の管理者は、セッション長の短縮を検討する。有効にした時点で、期間より古いセッションは即座に失効する[3]。
- 「私物のパソコンで会社のAIアカウントに入っているか」を把握する。今回の起点は業務システムではなく、個人の端末に入った汎用マルウェアだった。
- 複数組織に属する社員がいるなら、最短の設定が全体に効くことを共有しておく[3]。
今回の件を一行にすると、こうなる。盗まれたのはパスワードではなく、ログイン済みという状態だった。
出典・注記
- BleepingComputer「Anthropic warns infostealer malware is hijacking Claude sessions to drain usage」(2026年8月30日)。Anthropicが対象者に送った通知の文面、マルウェア6種の名称、サインアウト・決済手段の削除・返金の対応は同記事の引用による。執筆時点(2026年9月1日)に、Anthropicのニュース一覧(8月28日〜9月1日)とヘルプセンターの検索("infostealer")を確認した範囲では、この通知に対応する公開ページは見つからなかったため、通知の内容はすべて報道の引用として扱っている(対象者へのメールとして送られたものと見られる。公開ページが別の場所にある可能性は否定できない)。引用は筆者訳。
- Anthropic ヘルプセンター「How do I log out of all active sessions?」(最終更新 2026年8月6日)記事。セッション28日・1時間ごとの自動延長、モバイルアプリからは実行不可、Claude Code の認可トークンは別操作、の記述はここより。
- Anthropic ヘルプセンター「Configuring session security settings」(2026年5月7日)。管理者によるセッション長の短縮、Enterprise は1/7/14/28日・Console は1/3/7日、有効化で古いセッションが即座に失効、複数組織では最短が適用、および「侵害されたセッションが有効であり続ける時間を制限する」という目的の記述はここより。
- Anthropic ヘルプセンター「Managing your active sessions」(2026年3月16日)。有効なセッションの一覧に表示される項目(デバイスとブラウザ/IPから推定した location/最終利用)、個別終了の手順、「以前は、アカウントでどのセッションが有効かを見る方法がなかった」の記述はここより。
- GitHub の
anthropics/claude-codeリポジトリの課題 #43801(2026年4月5日起票・2026年5月19日に対応済みとして終了)。終了後の2026年8月22日・8月27日にも同じ症状の報告が投稿されている。これは利用者による報告であって、Anthropicの公式見解ではない。CAGでも再現は試していない。本文では「消えたことを画面で確かめる」という運用上の示唆としてのみ扱っている。 - 本記事はCAG自身が今回の攻撃やその対処を検証したものではなく、公式ヘルプセンターの記述と報道の読み解きに基づいている。数値・仕様はいずれも2026年9月1日時点の公開情報。
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