制作事例 | AI駆動開発の現場から
「近くの美容室、どこかいい?」——いま、その質問はGoogleの検索窓ではなく、ChatGPTやAIに直接投げられることが増えてきた。AIは、いくつかの店をすらすらと挙げ、特徴まで答える。では、あなたの店は、そこでちゃんと名前が挙がっているだろうか。正しく紹介されているだろうか。——多くの店主は、それを知る手段を持っていない。
これは、その問いに答える「AI検索チェック」——店名を入れるだけで、自分の店がAIにどう見られているかを専門用語ゼロ・30秒で診断するSaaSを、本番稼働まで作った制作事例だ。旬で・難しそうで・でも当事者にこそ必要なテーマを、店主が分かる言葉に翻訳して届ける——その設計を開示する。[1]

01検索の主役が、AIに変わりつつある
これまで、店を探す人は検索エンジンで調べ、上位に出る店を見ていた。だから店側は「検索で上位に出る」ことに力を注いできた。だが今、流れが変わりつつある。人はAIに直接たずね、AIがまとめた答えだけを見て、店を決める。検索結果を10件スクロールせず、AIが挙げた数店だけが選択肢になる。
ここで、店にとって新しい死活問題が生まれる。AIが店を挙げるとき、自分の店は入っているのか。どう説明されているのか。古い情報や間違いが混じっていないか。これは「検索順位」とは別の、新しい土俵だ。AI時代の店の見え方を最適化する取り組みはGEO(生成エンジン最適化)などと呼ばれ始めているが、専門用語が先行して、肝心の店主には届いていない。「GEO対策しましょう」と言われても、ほとんどの店主はGEOが何かを知らない。だから作るべきは、対策の前に——まず「自分の店が、今どう見えているか」を、誰でも分かる形で見せることだった。
怖いのは、この変化が、店主の見えないところで進むことだ。検索なら、自分でググれば順位は確かめられる。だがAIの答えは、聞く人・聞き方・タイミングで変わり、店主自身が全体像をつかむのは難しい。「お客さんがAIに聞いた結果、うちが候補にすら挙がっていなかった」——そんな機会損失が、誰にも気づかれないまま積み重なる。まず必要なのは、その見えない現実を、見えるようにする鏡だった。
02何を作るか:店名を入れるだけ、30秒で分かる
作ったものは、とにかく簡単に使えることを最優先にした。登録も不要。店名・エリア・業種を入れるだけ。30秒待てば、診断結果が出る。
結果ページには、難しい数字を並べない。代わりに、信号機のように🟢🟡🔴で直感的に状態を示す。「あなたの店は、AIに見つかっていますか/選ばれていますか/正しく伝わっていますか」。そして「まず直すべき1つ」——あれこれ言わず、最優先の一手だけをはっきり指す。さらに業種ごとの「今日からやれる基本施策3つ」。飲食・美容・整体・歯科・ジム・学習塾・士業——業種を選べば、その業種に合った診断と提案に切り替わる。専門知識がなくても、見た瞬間に「うちはここがマズいのか」が分かる。それが狙いだ。
03どう調べるか:AIに実際に聞いて、採点する
「AIでどう見えているか」を知るには、推測ではなく実際にAIに聞いてみるしかない。だからこのサービスは裏側で、店を探す人になりかわって、AIに何度も質問を投げる。
具体的には、業種とエリアと店名から「〇〇市で評判の良い美容室は?」のような質問文を自動で何種類も生成し、それをChatGPTやGoogleのAI回答に投げる。返ってきた答えをコードで読み解く採点の観点は6つ。表に整理する。
| 観点 | 何を見るか |
|---|---|
| 見つかる | 自分の店の名前は出てきたか |
| 上位表示 | 上位に挙がったか |
| 印象 | 良い印象で語られたか |
| 公式誘導 | 公式情報に正しく誘導されたか |
| エリア内 | エリア内で他店と比べてどうか |
| 誤情報 | 間違った情報は無いか |
この6つの観点で機械的に採点し、信号機の色を決める。AIの"気まぐれ"をならすため、同じ質問を複数回投げて平均を取る。「なんとなく」ではなく、実際のAIの応答を根拠に評価する——ここが診断の信頼性を支えている。[2]
ここでも、前に別の記事で書いた原則が効いている——「数えること・判定すること」はコードに任せ、AIには「自然な答えを返す」役だけをさせる。店の名前が出てきたか、何番目に挙がったか、といった判定をAIの主観に委ねると、結果がぶれる。だから、AIには探す人として普通に答えてもらい、その答えをこちらのコードが客観的に数えて採点する。AIに聞く部分と、評価する部分を分ける。この役割分担が、毎回ぶれない診断を可能にしている。
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04専門用語を、捨てる
このプロジェクトで一番時間をかけたのは、技術ではなく「どう見せるか」だった。せっかく6観点で精密に採点しても、「Q1の被参照率が……」なんて見せた瞬間、店主は離脱する。難しさは、作り手が引き受けて、表に出してはいけない。
そこで、6つの観点を「3つの力」に束ねた。見つかる力(AIに見つけてもらえているか)、選ばれる力(良い店として挙げてもらえるか)、正しく伝わる力(情報が正確に伝わっているか)。この3語なら、誰でも一瞬で意味が分かる。さらに状態は信号機の色で。「GEO」「被参照」「サイテーション」——社内では使う専門用語を、UIには一切出さないと決めた。難しいことを正確にやるのと、それを易しく見せるのは、別の仕事だ。後者を手抜きすると、どんなに中身が良くても使われない。"翻訳"こそが、このプロダクトの価値の半分を占めていた。

05「まず直すべき1つ」を、必ず指す
情報は、多ければ多いほど親切——ではない。課題を10個並べられても、人は何から手をつけていいか分からず、結局何もしない。だからこのサービスは、結果ページの一番上に、たった一つだけ「まず直すべき1つ」を置く。
採点の結果から、最も効く一手を選び、「何を・どれくらいの手間で・どれくらいの効果で直せるか」をバッジ付きで示す。あれもこれも、ではなく、今日やるべき一手だけ。残りの施策は、その下に「今日からやれる基本3つ」として控えめに添える。店主が迷わず、一歩を踏み出せることを最優先にした。これは設計思想であると同時に、「使われるかどうか」を分ける実務的な判断でもある。診断して終わりではなく、行動に移れて、はじめて価値が生まれる。「全部見せる」誘惑を断ち、「まず1つ」に絞る勇気が要った。
06誰に向けるか:作ってから、客を変えた
正直に書くと、このサービスは最初、別の人に向けて作っていた。当初はマーケティング担当者向けの、機能の多い分析ツールだった。実際に世に出し、運用もした。だが、使われ方を見ているうちに気づいた。本当にこの情報を必要としているのは、マーケターではなく、ITが得意でない現場の店主のほうだ。そして店主には、当初の作りは難しすぎた。
そこで、ターゲットを丸ごと「中小店舗のオーナー」に切り替えて、作り直した。プロダクト名も、専門家しか知らない言葉から「AI検索チェック」という見て分かる名前に変えた。機能を増やすのではなく、減らして・易しくした。「誰に向けるか」を変えることは、機能を足すよりずっと大きな決断だ。だが、当初の判断にしがみつくより、現実の手応えに従って向きを変えるほうが、いいものになる。AI駆動で開発が速いということは、「作り直す」のコストも下がるということだ。だから、思い切って客を変えられた。
07レポートの一貫性:主訴を、一本化する
本番のレポートを実際に見ていて、おかしな点に気づいた。ページ上部の見出しは「公式サイトに誘導できていない」と言っているのに、その下の「まず直すべき1つ」は別の課題を指していた。同じレポートの中で、言っていることが食い違っている。これでは信頼されない。
原因は地味だった。「見出しの課題を決める処理」と「まず直すべき1つを選ぶ処理」が、別々のルールで、別々に課題を選んでいた。それぞれ単体では正しく動くが、選ぶ基準が違うので結論がズレる。直し方は明快で、「このレポートの主訴(最優先の課題)は何か」を決める処理を、1か所に集約した。見出しも、まず直すべき1つも、おすすめ施策の先頭も、すべて同じ「主訴」を起点にする。これで矛盾は構造的に起きなくなった。同じことは、必ず1か所で決める。2か所で別々に判断させると、いつか必ずズレる——ソフトウェア設計の基本だが、レポートの説得力に直結する大事な一点だった。[3]
08締め:旬の難題を、易しく届ける
「AI検索での見え方」は、これから多くの店にとって避けられないテーマになる。だが新しくて専門的なものは、必要な人ほど、難しさの壁の前で止まってしまう。このプロジェクトがやったのは、その壁を取り払うことだった。中身は精密に作り込み、見せ方はとことん易しく。「3つの力」に束ね、信号機で示し、「まず直すべき1つ」だけを指す。
そして、作ってからでも客を変える柔軟さ、レポートの矛盾を構造から潰す丁寧さ、本番で課金まで通す完成度——派手なAIの裏に、こうした地に足のついた判断が積み上がって、はじめて「使えるサービス」になる。電脳技巧集団(AI職人ギルド)が得意とするのは、新しくて難しいことを、当事者に届く形まで翻訳して作り切ることだ。技術を見せびらかすのではなく、技術を、使う人の言葉に翻訳する。それが、本当に役立つものを作るということだと思う。

専門ツール vs 当事者に届くプロダクト。同じ中身でも、翻訳の有無で価値が変わる。
| 観点 | ありがちな専門ツール | AI検索チェック(CAG) |
|---|---|---|
| 使い始め | 登録・設定が必要 | 登録不要・店名を入れるだけ30秒 |
| 見せ方 | 専門用語と数字の羅列 | 3つの力+信号機で直感的に |
| 次の一手 | 課題を大量に列挙 | 「まず直すべき1つ」に集約 |
| 診断の根拠 | 推測・一般論 | 実際にAIに聞いて6観点で採点 |
| 対象 | 専門家前提 | ITが苦手な店主でも使える |
| 柔軟さ | 作ったら固定 | 手応えを見て客ごと作り直す |
※ 本記事はCAGが開発・本番稼働させたAI検索チェックSaaSの制作事例。設計判断・技術構成は実装に基づく(v0・2026時点)。利用ツール(生成AI/検索API/決済等)は技術紹介として記載。
脚注
- 本件は、中小・ローカル店舗オーナー(飲食/美容/整体/歯科/ジム/学習塾/士業 等)向けに、「自分の店が ChatGPT や Google の AI 回答でどう紹介されているか」を、専門用語ゼロ・登録不要・店名/エリア/業種を入れるだけで診断する SaaS。信号機評価+「まず直すべき1つ」+業種別施策を提示。Stripe によるサブスク課金を備え、本番稼働まで実装した。
- 診断は、業種×エリア×店名から「探す人が投げそうな質問」を自動生成し、生成AIと検索のAI回答に複数回問い合わせて、その応答をコードで解析する。評価軸は6つ(見つかってる割合 / 上位表示率 / 印象 / 公式情報への誘導 / エリア内シェア / 誤情報)。AI応答のばらつきを抑えるため同一質問を複数回反復し、結果を信号機(🟢🟡🔴)に集約する。
- レポートの「見出しの課題」と「まず直すべき1つ」が別ロジックで別々に最優先課題を選んでいたため、同一レポート内で主訴が食い違う不整合が発生していた。主訴(PrimaryIssue)の算出を単一モジュールに集約し、見出し・最優先施策・推奨施策の先頭がすべて同じ主訴を起点とするよう統一。「同じ判断は1箇所で行う(Single Source of Truth)」の原則で構造的に矛盾を排除した。
「AIに、自分のサービスがどう見られているか気になる」——その可視化、作れます。
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